要点
- らせん形状の極小ガラス容器に分子や溶媒を入れるシンプルなアプローチで、緑色から青色のCPLが得られる。
- 固体粉末での利用が可能である。
- 次世代ディスプレイや量子コンピュータへの応用が期待される。
概要
東京工業大学 物質理工学院 材料系の早川晃鏡教授、大阪工業大学 応用化学科の平井智康准教授、化学・環境・生命工学専攻 坂井飛成大学院生(博士前期課程1年)、台湾の国立陽明交通大学の李明家准教授らの国際研究グループは、らせんの形をした極小ガラス容器に蛍光分子と溶媒を入れるというシンプルなアイデアで、緑から青色まで自在に円偏光発光(CPL)の発光色を制御する技術を確立しました。
本研究成果は、2023年9月15日に米国化学会(ACS)の化学系トップオープンアクセスジャーナルである「JACS Au」にオンライン掲載されました。更に“supplementary cover”として採択されました。
背景
光の振動の方向が偏った光を偏光と呼びます。更に光の振動が右あるいは左方向に円を描きながら進行する偏光のことを円偏光と呼びます。太陽の光や蛍光灯の光には右回りと左回りの円偏光が同じ割合で含まれています。一方、分子などを利用して右回りと左回りの円偏光のうち、どちらかに偏った光を発光させる現象のことを円偏光発光(CPL)と呼びます。CPLを示す材料は3次元ディスプレイや量子コンピュータへの応用展開が期待されます。これまでCPLを示す材料には高価であるキラル[用語1]な構造からなる分子が必要とされてきました。また、CPLの色を変化させるためには、その都度キラル分子を作る必要がありました。
研究成果
研究グループでは独自の手法で調製した、らせん形状の極小ガラス容器にアキラル[用語2]な蛍光分子と溶媒を入れることでCPLが観測されることを明らかにしました。更に、溶媒の種類(水、メタノール)及びその混合比を変えることでCPLの発光色を緑から青色まで自在に変化させることに成功しました。
本研究成果より、(1)安価なアキラルな分子を利用してCPL材料の開発が可能になります。また、(2)らせん形状の極小ガラス粉末容器に蛍光分子溶液を入れる技術のため、ガラス容器の中に溶液が含まれた固体粉末としてCPL材料を取り扱うことができます。
付記
本研究は、国立研究開発法人エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のムーンショット型研究事業(JPNP18016)及び燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業(JPNP20003)、日本学術振興会 科学研究費助成事業(JP22K05245)により推進された。
用語説明
[用語1] キラル : 右手と左手の関係のように、鏡に映った像を重ね合わすことができない性質をもつ分子のこと。
[用語2] アキラル : キラルとは逆に、鏡に映った像を重ね合わすことができる分子のこと。
論文情報
掲載誌 : |
JACS Au |
論文タイトル : |
Controlling Circularly Polarized Luminescence Using Helically Structured Chiral Silica as a Nanosized Fused Quartz Cell (和訳:らせん構造を有するキラルシリカを微小石英セルとして利用した円偏光発光の制御) |
著者 : |
坂井飛成1、Tsz-Ming Yung2、牟礼知輝1、黒野直樹1、藤井秀司1、中村吉伸1、早川晃鏡3、Ming-Chia Li2、平井智康1 |
所属 : |
1 大阪工業大学工学部 応用化学科 2 国立陽明交通大学(台湾) 3 東京工業大学 物質理工学院 材料系 |
DOI : |
- プレスリリース 円偏光発光色 緑や青に自由自在 —らせん形状の極小ガラス容器による簡便な制御技術を確立—
- 結合した2種高分子間の「つなぎ目」が鍵|東工大ニュース
- 燃料電池の非白金化に繋がる新物質を開発|東工大ニュース
- 溶媒種に応答して紫外光下でフルカラー蛍光を示す無色透明なイミド化合物を開発|東工大ニュース
- 早川晃鏡 Teruaki Hayakawa|研究者検索システム 東京工業大学STARサーチ
- 早川・難波江研究室
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- 国立陽明交通大学(台湾)
- 研究成果一覧
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