東工大と清華大学(中国)の研究者のシミュレーションによると、惑星の含水量の観点で考えた場合、地球のような惑星は、観測的に現在注目されている低質量星のまわりではなく、太陽くらいの質量の恒星のまわり多く存在しそうだということがわかった。
生命が住める惑星(ハビタブル惑星)の探索は、現在、太陽質量の半分以下の質量のM型矮星と呼ばれる恒星に対して集中して行われようとしている。なぜならば、これらの恒星では、太陽と同程度の質量のG型矮星にくらべて、ハビタブル惑星を検出しやすいと考えられてきたからである。しかし、東工大の井田茂と中国清華大学のFeng Tianによるシミュレーションは、地球のような惑星を探すにはM型矮星は適していないであろうということを示す。
惑星が生命居住可能になるためには、その惑星の軌道が液体の水が表面に存在するのに温度が高すぎず低すぎずの軌道範囲(ハビタブル・ゾーン)に入っていることが必要になる。それに加えて、近年の研究は、海陸比が地球に近いことも必要ではないかということを示している。つまり、地球の場合の含水量程度(重量で0.01%程度)からあまり違ってはいけないだろうということである。たとえば、重量で1%を超えるような水を持つ惑星(陸がない「海惑星」)では気候が安定せず、栄養素の海への供給も制限されてしまう。一方、金星のような水に欠乏した「砂漠惑星」では生命は住めない。
太陽と同じくらいの質量の恒星であるG型矮星は、主系列に入る前の早期段階でほとんど明るさが変わらないが、M型矮星ではその段階で明るさが一桁以上も減少する。つまり、M型矮星をまわる、ちょうどいい量の水とちょうどいい距離を持つ惑星は、明るすぎる前主系列段階において海が干上がってしまうであろう。一方、海惑星はその大量の水を保持し続ける。
井田 茂とFeng Tian は、中心星が太陽質量の0.3, 0.5, 1.0 倍の質量の場合に、惑星分布をシミュレーションし、中心星の明るさの変化を考慮して水の蒸発過程を見積もった。彼らの計算結果によると、地球質量程度で地球くらいの含水量を持つ惑星の数は、G型矮星にくらべてM型矮星のまわりでは1/10~1/100しかなかった。彼らの結論は「地球のような惑星を探すならば、太陽型星で探すべきだ」というものである(注)。
- (注)
- 地球とは似ていないが、地球の生命とは異なる仕組みの生命が住む惑星は、M型矮星の惑星系にあるかもしれない。ここの結論はそのような可能性を排除するものではないことに注意。
背景
惑星形成シミュレーション
惑星は中心星の形成の副産物として形成される。星間雲中のガス塊の重力収縮が進行するにつれ、回転するガス塊は平たくなり、原始惑星系円盤を形成する。この円盤の中で、固体成分が合体成長して惑星ができる。
惑星形成ではいくつもの複雑なプロセスが同時進行する。形成される惑星の特徴は、円盤内の固体の初期分布、中心星の質量などのパラメータによって変わる。
いろいろな要素をとり入れたモデルが開発され、観測データと比較検討することで、どのような惑星が形成され、そのような特徴を持つのかが予言されるようになった。しかし、中心星の明るさの変化が、ハビタブル・ゾーンの惑星の表層環境(ここでは海の量)にあたえる影響についての解析は、これまで行われてこなかった。
系外惑星の観測
系外惑星の観測プロジェクトは、TESS、Platoなど、次々と計画されている。将来、惑星の平均密度の測定や多波長のスペクトル観測が行われれば、地球と似た水の量を持つ惑星は、海惑星や砂漠惑星と区別できるようになるであろう。
シミュレーション結果
太陽質量の0.3倍の恒星1,000個に対して計算したところ、69,000個の惑星が得られ、そのうちの5,000個は地球質量に近く、55個はハビタブル・ゾーンに入っていた。しかし、その55個のうち31個は海惑星で、23個は砂漠惑星で、地球と同じような含水量の惑星はたった1個しかなかった。
太陽質量の半分の恒星1,000個の場合は、75,000個の惑星が得られ、そのうちの9,000個は地球質量に近く、292個はハビタブル・ゾーンに入っていた、そのうち60個は海惑星で、220個は砂漠惑星。地球と同じような含水量の惑星は12個であった。
太陽質量の恒星については、38,000個の惑星が得られ、そのうちの8,000個が地球質量に近く、407個はハビタブル・ゾーンに入っていた、そのうち91個は海惑星で、45個は砂漠惑星。大部分の271個は地球と同じような含水量であった。
この結果にある詳細な数には意味はないが、地球と同じような含水量を持つ、ハビタブル・ゾーンにある惑星の割合は、太陽質量の恒星にくらべて、小質量の恒星のまわりでは極めて少ないということは確実に言える結果であり、重要な結論である。ただし、惑星内部(たとえばマントル)にどれくらいの水が取り込まれ得るのか、どれくらいの量が後から表面に出て来るのかということを調べることが、地球と同じような含水量を持つ、ハビタブル・ゾーンにある惑星が、実際にはどれくらい存在するのかを知る上では重要であり、それは今後の研究課題である。
ここでは地球質量程度の惑星の含水量を軌道半径の関数としてプロットしてある。中心星が前主系列段階に入ってから(そのときに惑星形成も始まったとした)9000万年後の時点の惑星のデータ。一点一点が惑星一個一個を示し、1000個の恒星で作られた惑星を重ねてある。a-c(左列)はそれぞれ、中心星質量が太陽の0.3倍(上段)、0.5倍(中段)、1倍(下段)の場合の結果。d-f(右列)は中心星の明るさの変化と水の蒸発の効果を入れた結果。主系列に入ったときのハビタブル・ゾーンを青緑の影で示してある。
論文情報
掲載誌 : |
Nature Geoscience 8, March 2015 |
論文タイトル : |
Water contents of Earth-mass planets around M dwarfs |
著者 : |
Feng Tian and Shigeru Ida
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DOI : |
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