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世界初となる「カーボン空気二次電池システム」の提案と開発 再生可能エネルギーの大量導入に必要となる固体酸化物型大容量蓄電システム

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要点

  • CO2電気分解を利用した蓄電と、炭素と空気を用いた化学反応による発電を組み合わせた固体酸化物型の大容量蓄電システムを世界で初めて開発
  • 理論放電効率は100%であり、水素ガスを用いた既存のシステムよりも高い理論体積エネルギー密度1,625 Wh/Lを有する
  • 再生可能エネルギーの大規模利用において必要となる、大容量蓄電システムとしての活用に期待

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の亀田恵佑大学院生(博士後期課程3年)と伊原学教授らは、二酸化炭素(CO2)の電気分解により炭素(C)として蓄電し、その炭素と空気中の酸素(O2)を用いて発電する「カーボン空気二次電池(Carbon/air secondary battery、CASB)システム」を提案し、その充放電の実証に成功した。CO2の電気分解に関する研究と、炭素と酸素を用いて発電する研究は、それぞれこれまでも報告されていたが、両者を組み合わせたシステムの開発は、本研究が初となる。

今回開発されたCASBシステムは、再生可能エネルギーの大量導入に必要な大容量蓄電技術として注目される水素/水-power-to-gas-to-power (H2/H2O-P2G2P)[用語1]と比較して、理論体積エネルギー密度[用語2]が1,625 Wh/Lと圧縮水素(379 Wh/L、20 MPa)よりも高く、全体反応C+O2⇆CO2基準の理論放電効率[用語3]が100%である。また、蓄電システムの出力と蓄電容量を独立に制御できることから、次世代大容量蓄電システムとして期待できる。放電時に生成するCO2は貯蔵されるため、システムとしてはCO2を排出しないことも特徴である。

固体酸化物燃料電池/電解セル(SOFC/EC)[用語4]を使用した充放電実験ではクーロン効率[用語5]84%、充放電効率[用語6]38%を達成した。

本研究成果は「Journal of Power Sources」オンライン版に11月5日付で掲載された。

背景

再生可能エネルギーの導入が進められているが、大きな課題として電力需給バランスにどう対応するか、という点が挙げられる。すなわち、天候や状況に左右されやすい太陽光発電や風力発電は発電量が安定しないため、需要に対する過剰な発電や、大電力が必要な時の発電量不足が生じることなどが懸念される。この課題に対応するために求められているのが「大容量蓄電技術」である。

大容量蓄電の技術開発・設備設計において考えるべきポイントはいくつか存在する。例えば、可能な限りコンパクトな設備で、できるだけ多くの蓄電量を確保することが求められる。また、充電や放電をする際にロスが生じないこと(充放電効率)も重要となる。そのほか、充放電にかかる時間が少ないことや、取り出せるエネルギーが大きいことなどの要素を踏まえて、蓄電技術の開発・導入について検討が進められている。

数ある技術の中で、近年注目が集まっているのが「水素」を用いた充放電手法である。水を水素に電気分解し、水素ガスとして電力を貯めることができ、水素ガスを用いて発電することで再度電力を取り出す。水素ガス(Gas)と電力(Power)を相互に変換することから、水/水素 - Power to Gas to Power(H2/H2O-P2G2P)と呼ばれている。H2/H2O-P2G2Pでは蓄電容量と出力を独立に設定できる利点があるものの、水素の酸化に伴う反応エントロピー変化[用語7]や水の蒸発潜熱[用語8]が大きいことから、充放電効率が低くなってしまうことが課題として挙げられる。また、ガスは固体に比べて体積が大きく、体積あたりのエネルギー密度が小さくなるため、貯蔵に場所を要するといった点も課題となってくる。

H2/H2O-P2G2Pの高効率化や設備のコンパクト化に向けた研究も進められている中で、さらに高い性能を持つ充放電方式を開発・検討することも重要であり、本研究室では特に炭素(C)を用いた手法に着目してきた。これまでに、炭化水素の熱分解で炭素を供給し、炭素を燃料に繰り返し発電するRechargeable Direct Carbon Fuel Cell(RDCFC)を開発してきた[参考文献1、2]

本研究では新たに、エネルギー密度が高く、エントロピー変化が 2 kJ/mol未満と小さい炭素とCO2の酸化還元反応C+O2⇄CO2を活用することに着目した。具体的には、CO2の電解反応とBoudouard反応による熱化学平衡を利用して炭素を析出し、析出した炭素をRDCFCと同様な反応で発電することで充放電を行う。

研究成果

本研究では、SOFC/ECを使用してCO2の電気分解により炭素として蓄電し、その炭素を利用して発電可能な大容量蓄電システムとしてCASBシステムを提案し、その充放電の実証に成功した。

図1にCASBシステムの充放電方法を示す。

図1 CASBシステムの充放電方法

図1. CASBシステムの充放電方法

【充電(CO2電気分解)時】
CO2は液体状態で貯蔵しておき、充電時は気化して使用する。システム内に送られたCO2は、SOECに投入した電力によって炭素に電気分解され、その炭素はSOFC/EC内部に貯蔵される。充電時間の経過に伴い一酸化炭素(CO)の分圧を増加させ、Boudouard反応による熱平衡反応(2CO⇆C+CO2)を利用して炭素を析出させる。
【放電(発電)時】
内部に貯蔵された炭素と、システムに送り込んだ空気中のO2を用いた反応を進行させ電力を得る。この際に生成したCO2を再び液体で貯蔵することで充放電サイクルとなる。そのためCASBシステムの充放電においてCO2は排出されない。

図2に各蓄電技術の体積及び重量基準のエネルギー密度と出力密度の関係を示す。CASBシステムの理論体積エネルギー密度は1,625 Wh/L、理論重量エネルギーは2,500 Wh/kgである。CASBシステムは定置型の蓄電システムと想定しているため、体積エネルギー密度の方が重要な指標となり、圧縮水素(理論体積エネルギー密度 379 Wh/L、20 MPa)やリチウムイオン電池より高い体積エネルギー密度がCASBシステムでは期待される。またH2/H2O-P2G2Pと同様に、貯蔵する炭素やCO2の容量(=蓄電容量)と燃料電池/電解セルの出力を独立に設定できるため、CASBシステムは大容量蓄電システムとしての活用も見込まれる。

図3にCASBシステムの充放電特性と性能を示す。SOFC/ECを使用した本実験では、800℃、100 mA/cm2の条件で電極が劣化することなく充放電サイクル(10回)にも世界で初めて成功した。結果として、クーロン効率84%、充放電効率38%、出力密度80 mW/cm2を達成した。

図2 蓄電技術の体積(a)及び重量(b)基準のエネルギー密度と出力密度の関係。 リチウムイオン電池(Li-ion)、ナトリウム―硫黄電池(NaS)、鉛二次電池(Lead-acid)、ニッケル―カドミウム電池(NiCd)、バナジウムレドックスフロー電池(VRFB)は文献値。

図2. 蓄電技術の体積(a)及び重量(b)基準のエネルギー密度と出力密度の関係。

リチウムイオン電池(Li-ion)、ナトリウム―硫黄電池(NaS)、鉛二次電池(Lead-acid)、ニッケル―カドミウム電池(NiCd)、バナジウムレドックスフロー電池(VRFB)は文献値。

図3 CASBシステムの充放電特性(a)と性能(b)。 図3aにおいて縦軸は端子電圧と出力密度PD、横軸は経過時間と容量を示す。点線は理論起電力。図3bにおいて赤色の丸はクーロン効率ηC、青色の三角は充放電効率ηcd、緑色のひし形は放電時の出力密度PDを示す。

図3. CASBシステムの充放電特性(a)と性能(b)。

図3aにおいて縦軸は端子電圧と出力密度PD、横軸は経過時間と容量を示す。点線は理論起電力。図3bにおいて赤色の丸はクーロン効率ηC、青色の三角は充放電効率ηcd、緑色のひし形は放電時の出力密度PDを示す。

今後の展開

本研究で実証に成功したCASBシステムの充放電効率38%は概算したH2/H2O-P2G2Pの充放電効率(20%~54%)に匹敵する結果を得ることができた。実用化に向けては、さらなる高効率化が望まれるため、今後システムの改善・発展を進めていく。効率を高めるためには、炭素の効率的な利用が可能で、かつ炭素析出下でも過電圧が低い電極の開発が必要となる。またCASBシステムの実装に向けて、体積エネルギー密度や充放電効率が高くできるシステム全体の充放電プロセスの検討が必要となる。

付記

本研究は、JSPS科学研究費助成事業(JP20K20364)の支援によって実施された。

用語説明

[用語1] 水素/水-power-to-gas-to-power (H2/H2O-P2G2P) : 水の電気分解により水素として蓄電(充電)し、その水素を燃料電池で発電(放電)する蓄電システム。

[用語2] 体積エネルギー密度 : 体積当たりの取り出し可能なエネルギーの密度。

[用語3] 理論放電効率 : 化学反応で生成する熱(エンタルピー変化)に対する電気として取り出し可能な最大エネルギー(ギブズエネルギー変化)の割合。水素の酸化反応H2+1/2O2⇆H2Oの理論放電効率は800℃で76%。

[用語4] 固体酸化物燃料電池/電解セル(SOFC/EC) : SOFC/ECはsolid oxide fuel cell/electrolysis cellの略。SOFCは酸化物イオンが伝導するセラミックを利用した燃料電池。SOECはSOFCに電流(電圧)を印加して発電の逆反応(電気分解)を進行させるデバイス。作動温度は一般的に600℃~1,000℃と燃料電池の中で最も高温で作動する。

[用語5] クーロン効率 : 充電に要した電気量[Ah](=電流[A]と時間[h]の積)に対する放電できた電気量の割合。

[用語6] 充放電効率 : 充電に要した電力[Wh]に対する放電で取り出すことができた電力の割合。

[用語7] エントロピー変化 : 定圧定温における理想的なエネルギー変換において、仕事ではなく、熱として放出(吸収)してしまう最小量を決定する指標と理解できる。

[用語8] 蒸発潜熱 : 液体の物質が気体に相変化(蒸発)する際に吸収される熱量。

参考文献

[1] M. Ihara and S. Hasegawa, Quickly Rechargeable Direct Carbon Solid Oxide Fuel Cell with Propane for Recharging, Journal of The Electrochemical Society, 153, (2006), A1544-A1546

[2] S. Hasegawa and M. Ihara, Reaction mechanism of solid carbon fuel in rechargeable direct carbon SOFCs with methane for charging, Journal of The Electrochemical Society, 155, (2008), B58-B6

論文情報

掲載誌 :
Journal of Power Sources
論文タイトル :
Carbon/air secondary battery system and demonstration of its charge-discharge
著者 :
Keisuke Kameda, Sergei Manzhos, Manabu Ihara
DOI :

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(東工大 InfoSyEnergyコンソーシアム 代表)

伊原学

E-mail : mihara@chemeng.titech.ac.jp
Tel / Fax : 03-5734-3918

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


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