東京工業大学理学院地球惑星科学系の横山哲也教授は、小惑星探査機「はやぶさ2」[用語1]が持ち帰った小惑星リュウグウ[用語2]のサンプル粒子の分析を6月18日より開始しました。大岡山キャンパスの横山研究室にあるクリーンルームおよび分析機器を駆使し、微量の粒子の元素存在度や同位体組成を1年かけて調べます。リュウグウの起源を探り、太陽系の進化の解明につながる壮大な国際研究です。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「はやぶさ2」プロジェクト初期分析チームは、粒子の分析を1年間行い、プロジェクトの科学目標である太陽系の起源と進化、地球の海や生命の原材料物質に関する成果をあげることをめざします。初期分析チームには、14ヵ国、109の大学と研究機関、269人が参加し、化学分析、石の物質分析、砂の物質分析、揮発性成分分析、固体有機物分析、可溶性有機物分析の6つのサブチームから構成されます。
横山教授は、化学分析チーム(チームリーダー:北海道大学大学院理学研究院 圦本尚義=ゆりもと ひさよし=教授)の副リーダーとして、リュウグウ粒子の化学的特徴を明らかにする分析をおこないます。平均的な化学組成と元素の同位体組成を分析し、試料構成要素の同位体組成変動と形成年代を求めます。これらの結果から、リュウグウと地球に降り注ぐ隕石の種類との関係を明らかにし、リュウグウの起源と成因を探ります。
横山哲也教授の話
「リュウグウの物質の起源やリュウグウの形成を知るため、地球外物質が汚染されないクリーンルームを整備しました」
今回、私たちは「はやぶさ2」帰還試料を用いて、その平均的な化学組成(元素存在度)、および10種類以上の元素の同位体組成を分析します。リュウグウの元素存在度や同位体組成は、探査機による近傍観測では分からなかったものであり、現地で採取した試料を地球の実験室で分析することにより、初めて得ることができます。元素存在度や安定同位体組成のデータが得られると、リュウグウを構成する物質の起源や、物質が受けた熱の履歴が明らかになります。また、放射壊変起源の同位体組成からは、リュウグウの形成時期や形成過程を知ることができます。これらの情報と、他の初期分析チームが取得したデータとを融合することにより、はやぶさ2プロジェクトのサイエンスゴールである太陽系の起源と進化、および生命の原材料物質の解明を目指します。
初期分析において私たちが使用できる試料の重量はmgのオーダーであり、ごくわずかです。そのため、実験室環境からの汚染を極限まで防ぐ必要があります。私たちはサンプルリターン試料の分析を見据え、長期間かけて、東工大に地球外物質の分析に特化したクリーンルームと分析機器群を整備してきました。東工大におけるはやぶさ2帰還試料の初期分析は、このクリーンルームで行われます。はやぶさ2プロジェクトに関わる全ての方の継続的な努力により、試料が地球にもたらされました。皆様に感謝しながら、1年間の初期分析に臨みたいと思います。貴重な試料の初期分析によりどのような新発見があるのか、今から大変楽しみです。
用語説明
[用語1] 小惑星探査機「はやぶさ2」 : 日本の小惑星探査機。2014年12月に打ち上げ、2018年6月に小惑星リュウグウに到着し、約17ヵ月の近傍観測期間中に小惑星表面に2回の着地に成功しました。着地の際に弾丸を発射し、舞い上がった粒子が今回、持ち帰られたと考えられます。2020年12月6日に豪州に地球帰還カプセルを着地させ、現在は拡張ミッションとして、小惑星1998 KY26に向けて、飛行中です。
[用語2] 小惑星リュウグウ : そろばん玉のような形状をしたC型小惑星。「はやぶさ2」による探査の結果、元天体が破壊され、その破片が再度集まったような天体であることや表面には含水鉱物(構造中に水を含む鉱物)が存在することが明らかとなりました。反射スペクトルの類似性から、始原的隕石である炭素質コンドライトとの類似性が指摘されており、帰還試料の分析によってその詳細が解明されます。