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曲げた機能性フィルムの表面ひずみ計測法を開発 フレキシブル材料を用いたフォルダブルデバイスやソフトロボットの開発に威力

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要点

  • 曲がるフィルムの表面ひずみを高精度にリアルタイム計測できる手法を開発
  • 湾曲による破断ひずみを正確に実測
  • ひずみを低減した基板フィルムの設計により湾曲破壊を抑制

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の宍戸厚教授と同大学の田口諒大学院生は、東京大学大学院新領域創成科学研究科の竹谷純一教授らとの研究グループにより、機能性フィルム[用語1]の簡便な表面ひずみ[用語2]計測法を開発した。光を回折するグレーティング[用語3]をフィルム表面に貼り付けることにより、フィルムの曲げによる表面ひずみを簡単に定量計測することに成功した。計測法を活用して、設計したフレキシブルフィルムは従来のフィルムよりも60%以上も表面ひずみが小さい。このフィルムによって、曲げても壊れないハードコートフィルム[用語4]フレキシブルトランジスタ[用語5]を実現した。

画面が曲がる有機ELスマートフォンなどのフレキシブル電子デバイスは、フィルム上に電子部品やセンサーを積み重ねることで開発される。しかし、デバイス破壊の原因となる表面ひずみを簡便に計測する方法はなかった。今後、曲げることができる折りたたみスマートフォンの開発に弾みがつくと期待される

研究成果はドイツの科学誌「Advanced Materials Interfaces(アドバンスド・マテリアルズ・インターフェイシズ)」オンライン版」に1月25日(現地時間)に掲載され、本誌には3月9日に掲載される。

背景

フレキシブル電子デバイスはフレキシブルフィルム上に導電材料を構築することで作製される。デバイスが曲がるとフィルム表面は大きくひずむ(フィルムの外側は膨張し、内側は収縮する)。この表面ひずみが導電材料の限界を超えると、フレキシブルデバイスは壊れてしまう(図1a左)。金属は1~3%のひずみで、半導体は1~2%のひずみで破壊する(図1b)。

一般的なフィルムの表面ひずみは厚さに比例するため、フィルムを10 µm以下の厚さ(髪の毛の1/5程度)にすることによって、表面ひずみをできるだけ小さくし、埋め込み可能なインプランタブルや身に着けることが可能なウェアラブル用途に向けたフレキシブルデバイスが開発されてきた。

しかし、曲がるスマートフォンやタブレットなどのフォルダブルデバイスの開発を指向した場合、フィルムを超薄膜化する手段はデバイスの使いやすさの点から難しい。表面ひずみが小さく、ある程度の厚さ(100 µm = 0.1 mm以上)をもつフィルム(図1a右、図1b)が求められているが、フレキシブルフィルムの表面ひずみ計測法は提案されていなかった。

図1. フレキシブル電子デバイス、フィルムの厚さと表面ひずみの関係

図1.
  • (a)フレキシブル電子デバイス
    フレキシブルフィルム上に導電体や半導体を構築することで作製される。
    (左)一般的なフィルムを使用して作製されたデバイスは曲げに伴うフィルムの大きな表面ひずみにより破壊する。
    (右)本研究で開発したフィルムは小さな表面ひずみを示すため、大きく曲げてもデバイスは壊れない。
  • (b)フィルムの厚さと表面ひずみの関係
    フィルムの表面ひずみが材料の破断ひずみ(↕)を超えると、デバイス性能が低下する。

研究成果

宍戸教授らの研究グループは、大きく曲がるフィルムの表面ひずみを簡便に定量計測できる手法「表面ラベルグレーティング法」を開発した(図2)。回折格子と呼ばれる数マイクロメートル周期の凹凸を持つラベルをフィルム表面に貼り付ける。このフィルムにレーザー光を入射すると、凹凸の周期に応じて光が回折する。

フィルムを曲げながら、回折角を計測することによりフィルムの表面ひずみを高精度に計測できる。表面が滑らかであれば、原理的に対象物を問わない。プラスチックだけでなく、ガラスや異種物質を積み重ねた積層フィルムの表面ひずみの計測にも成功し、汎用性の高い手法である。

本計測法は0.01%以下の表面ひずみを高精度に計測できる。論文中ではスマートフォンの保護フィルムに使用されるハードコートフィルムが1.45%の表面ひずみで割れることを明らかにした。この指標をもとに、二枚のフィルムで、柔軟なフィルムをサンドイッチした三層構造をもつフィルムを設計した。三層フィルムは大きく曲げても1%程度しかひずまない。ハードコートフィルム作製に三層フィルムを使用することで曲げても割れないハードコートフィルムの開発に成功した。

三層フィルムは200 µmの厚さをもち、フレキシブルデバイスに使用される通常のフィルムよりも数倍厚いが、表面ひずみは60%程度小さい。東京大学大学院の竹谷教授らの半導体転写技術を応用して、三層フィルム上に有機トランジスタを構築したところ、開発したフレキシブルトランジスタは曲げてもデバイス機能がほとんど低下しないことがわかった。

図2. 表面ラベルグレーティング法による表面ひずみの測定原理

図2. 表面ラベルグレーティング法による表面ひずみの測定原理

レーザー光を入射した際に生じる回折光の角度変化からフィルムの曲げに伴う表面ひずみを簡便に計測することができる。
(左)凹凸周期に依存した角度でレーザー光が回折する。
(右)フィルム表面の曲げひずみによって凹凸周期が変化し、回折角度が変化する。

今後の展開

曲がるスマートフォンの開発に向けて、曲がっても機能し続けるフレキシブル材料や電子部材の需要が増している。これまでの勘と経験に頼った素材開発から脱却し、表面ひずみの簡便な計測により、明確な定量指標のもと材料設計が可能となる。今後はフレキシブルデバイス開発のみならず、ソフトロボット開発などへ応用が期待される。

用語説明

[用語1] 機能性フィルム : 高分子フィルムに反射防止能、ガスバリア性、表面硬度や導電性などの新しい機能と価値を付与したフィルムの総称である。

[用語2] 表面ひずみ : 表面の変形状態を表す尺度であり、初期状態の長さに対する変位の比で定義される。フィルムの曲げに伴い表面が膨張するため、デバイスの破壊や疲労の原因となる。表面ひずみの簡便な定量計測手法が望まれていた。

[用語3] グレーティング : 光を回折する回折格子。屈折率の周期構造体により形成される。内部に周期的な屈折率変化を有するものと、表面に周期的な凹凸を有するものがある。表面ラベルグレーティング法では、どのグレーティングも利用可能である。本論文では周期的な凹凸を利用している。

[用語4] ハードコートフィルム : フレキシブルフィルム表面を硬い樹脂でコーティングすることで、表面をガラスのように強化したフィルム。スマートフォンやタブレットなどのディスプレイ画面の保護フィルム用途として開発されている。

[用語5] フレキシブルトランジスタ : トランジスタは、信号を増幅またはスイッチングすることができる半導体素子であり、電子デバイスに欠かせない電子部品である。フレキシブルトランジスタは、この部品の形状に柔軟性を与えたものである。

論文情報

掲載誌 :
Advanced Materials Interfaces
論文タイトル :
Nanoscale Analysis of Surface Bending Strain in Film Substrates for Preventing Fracture in Flexible Electronic Devices
著者 :
Ryo Taguchi, Norihisa Akamatsu, Kohei Kuwahara, Kayoko Tokumitsu, Yoshiaki Kobayashi, Masayuki Kishino, Keita Yaegashi, Jun Takeya, and Atsushi Shishido
DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

教授 宍戸厚

E-mail : ashishid@res.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5242

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


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