Quantcast
Channel: 更新情報 --- 研究 | 東工大ニュース | 東京工業大学
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2008

ビオローゲン陽イオンラジカルはいかにしてギ酸脱水素酵素の二酸化炭素還元触媒能を向上させているか

$
0
0

要点

  • 人工光合成系における二酸化炭素を有機分子であるギ酸に変換する過程において、ギ酸脱水素酵素の活性化に有効な補酵素:メチルビオローゲンの陽イオンラジカル[用語1]が酵素活性の向上にどのように関与しているのかを、実験データを基に考察する酵素反応速度論に加え、理論化学的計算に基づき解析し、綿密な機構を明らかにした。
  • 人工光合成系の実現に向け、二酸化炭素を効率的に有機分子に変換する補酵素の設計・開発における重要な指針となる。

概要

メチルビオローゲンの陽イオンラジカル

大阪市立大学 人工光合成研究センターの天尾豊教授と東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の宮地輝光助教は、人工光合成系において、ギ酸脱水素酵素が触媒する二酸化炭素のギ酸への還元過程において、メチルビオローゲンの陽イオンラジカルの電子供給機構を明らかにしました。

太陽光エネルギーを利用して二酸化炭素を有機分子に変換する人工光合成系を創製するための重要な要素技術として進められている触媒の開発において、ギ酸脱水素酵素(FDH)内で、補酵素であるメチルビオローゲンの陽イオンラジカル(MV.+)が、いかにして二酸化炭素をギ酸に還元するかについて、本質的な相互作用に関しては明らかではありませんでした。

酵素反応速度論に基づいたいくつかの反応モデルに加え、理論化学的計算に基づくFDH内でのMV.+の結合様式、及び密度汎関数理論(DFT)によるMV.+の電子状態の決定により、実験及び理論検討の両面からMV.+による電子供給の機構を明らかにしました。

本研究成果は、Royal Society of Chemistry (RSC) が発刊する物理化学の専門誌『Physical Chemistry Chemical Physics (PCCP) 』誌に掲載されました。

背景・内容

科学技術の発展と共に温室ガスなどによる地球環境汚染、大量の産業廃棄物処理および石油・石炭などの化石エネルギーの枯渇という重大な問題を次の世代に残さないために、環境低負荷型エネルギー循環システムの構築や二酸化炭素を代表とする温室効果ガスを有効利用するエネルギー変換システムの開発が急務です。地球規模で削減目標が定められている二酸化炭素は、排出を規制して削減する方法以外に、むしろこれを積極的に原料として活用し、有用物質に変換する方法は意義ある技術課題になります。このような背景から、太陽エネルギーを利用し二酸化炭素を新たな燃料に変換する人工光合成技術が注目を浴びています。

これまで大阪市立大学人工光合成研究センターでは、二酸化炭素をギ酸(燃料、化成品、エネルギー貯蔵媒体)に変換する反応を促進させる触媒=“ギ酸脱水酵素(FDH)”の活性を飛躍的に向上させることを目的とした研究を進めてきました。特に、メチルビオローゲンと呼ばれる単純な化学構造を持つ電子メディエータの陽イオンラジカル(MV.+)がFDHの二酸化炭素還元触媒能を飛躍的に向上させることを見出してきました。
Discovery of the Reduced Form of Methylviologen Activating Formate Dehydrogenase in the Catalytic Conversion of Carbon Dioxide to Formic Acidouter

反応式から分かるように、FDHが触媒して二酸化炭素をギ酸へ還元するためにはMV.+が2分子必要です。しかし、それらのMV.+ がFDH内で二酸化炭素をギ酸に還元する具体的なメカニズムについては明らかではなく、実験的に得られたデータを基にしたMichaels-Menten式[用語2]による単純な酵素反応速度論だけで議論されてきており、FDHとMV.+との本質的な相互作用に関しては解明されていませんでした。

今回、酵素反応速度論に基づいたいくつかの反応モデル解析を天尾豊教授が、理論化学的計算に基づくFDH内でのMV.+の結合様式及び密度汎関数理論(DFT)によるMV.+の電子状態解析を宮地輝光助教がそれぞれ担当する形で共同研究を実施し、FDH内でのMV.+とCO2の結合様式を明らかにし、FDHを触媒として二酸化炭素をギ酸へ還元する過程において、MV.+による電子供給が図に示すような機構で進行することを突き止めました。

MV.+とCO2とのFDH内での結合予想の一例

今後の展開

今回の発見は、二酸化炭素を効率的に有機分子に変換する人工光合成系実現に向け、触媒機能を向上させる補酵素の開発・設計における重要な指針になるものと考えられます。

資金情報

本研究の成果は、大阪市立大学人工光合成研究拠点共同利用・共同研究課題、学術研究助成基金助成金国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))および科学研究費補助金新学術領域研究によって得られたものです。

用語説明

[用語1] 陽イオンラジカル : 正の電荷を持ち、不対電子も持っているもの。

[用語2] Michaels-Menten式 : 酵素の反応速度論に大きな業績を残したレオノール・ミカエリスとモード・レオノーラ・メンテンにちなんだ、酵素の反応速度v に関する式である。

論文情報

掲載誌 :
Physical Chemistry Chemical PhysicsPCCP)(Royal Society of Chemistry発刊)
掲載月 : 2020年7月
論文タイトル :
How does methylviologen cation radical supply two electrons to the formate dehydrogenase in the catalytic reduction process of CO2 to formate?
著者 :
MIYAJI, Akimitsu, AMAO, Yutaka
DOI :
<$mt:Include module="#G-07_物質理工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系

助教 宮地輝光

E-mail : miyaji.a.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5417

大阪市立大学 人工光合成研究センター

所長 天尾豊

E-mail : amao@osaka-cu.ac.jp
Tel : 06-6605-3726

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

大阪市立大学 広報課
担当 西前香織

E-mail : t-koho@ado.osaka-cu.ac.jp
Tel : 06-6605-3411


Viewing all articles
Browse latest Browse all 2008

Trending Articles