要点
- 真核生物の鞭毛・繊毛を駆動する分子モーター・ダイニンが、微小管上に一列に一定間隔で並ぶ仕組みを解明
- ダイニンを微小管に結合させるタンパク質複合体「ドッキング複合体」が一定間隔の土台を作ることを発見
概要
東京大学大学院理学系研究科の大和幹人大学院生、神谷律名誉教授(学習院大学理学部客員教授)、東京工業大学資源化学研究所の若林憲一准教授らの研究グループは、名古屋大学エコトピア科学研究所、東京工業大学生命理工学研究科、コネチカット大学ヘルスセンター、マサチューセッツ大学メディカルスクールとの共同研究により、真核生物の鞭毛(用語1)を動かすエンジンであるタンパク質「ダイニン」(用語2)が、鞭毛を構成するタンパク質繊維「微小管」(用語3)上に規則的に並ぶ仕組みを解明した。
「外腕ダイニン」の根元に存在する「ドッキング複合体」(用語4)の性質に着目し、それ自体が約24nmの長さで、微小管上の決まった位置に数珠つなぎで結合することを突き止めた。ドッキング複合体が作った24nm周期の上に外腕ダイニンが乗ることで、ダイニンの24nm周期の結合ができあがる。鞭毛の構築メカニズムの理解だけでなく、外腕ダイニンの欠陥が主因と考えられているヒト疾患「原発性繊毛不動症候群」の研究に役立つと期待される。
この成果は米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン版に6月16日に掲載された。
用語説明
(1)鞭毛・繊毛:
真核細胞から生える毛状の細胞小器官。「1細胞からたくさん生える数μm程度の短いもの」を繊毛、「1細胞から数えられる程度生えるそれより長いもの」を鞭毛と呼ぶ習慣があるが、これらは本質的には同じ器官である。ダイニンの駆動により波打ち運動を行うタイプと、ダイニンを持たないため動かず、化学・力学センサーとして働くタイプがある。
(2)ダイニン:
微小管の上を動くタンパク質。生体エネルギーATP(アデノシン3リン酸)の加水分解によって得られたエネルギーで構造変化して動く。
(3)微小管:
チューブリンと呼ばれるタンパク質が重合してできあがった、中空のタンパク質繊維。直径約25nm。
(4)ドッキング複合体:
外腕ダイニンの基部にあって微小管結合に介在するタンパク質複合体。分子量約83k, 62k, 21kの3つのタンパク質から成る。このうち62kの遺伝子はヒトに至るまで進化的によく保存されており、そのダイニンドッキング機能も保持されていると考えられている。
論文情報
著者: |
Mikito Owa, Akane Furuta, Jiro Usukura, Fumio Arisaka, Stephen M. King, George B. Witman, Ritsu Kamiya, and Ken-ichi Wakabayashi |
雑誌名: |
PNAS 2014 ; published ahead of print June 16, 2014 |
論文タイトル: |
Cooperative binding of the outer arm-docking complex underlies the regular arrangement of outer arm dynein in the axoneme |
DOI: |
(左)クラミドモナス細胞。2本の鞭毛を持ち、平泳ぎのように動かして水中を泳ぐ。鞭毛の長さは約12μm。
(中)鞭毛断面の模式図。9組の2連微小管が2本の微小管を囲む「9+2構造」をもつ。2連微小管の上のモータータンパク質ダイニンが向かい側の2連微小管に対して滑り運動をすることで鞭毛は屈曲する。
(右)2連微小管をダイニンの側から見た模式図。外腕ダイニンは24nm周期で1列に配列している。他の構造は96nm周期で配列している。
お問い合わせ先
資源化学研究所 准教授 若林憲一
Tel: 045-924-5235
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