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新しい原理で駆動する可視光水分解電極を開発 ありふれた物質に眠る有用な新機能を発見

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要点

  • 酸化チタンと水酸化コバルトを組み合わせた可視光駆動型水分解電極を開発
  • 太陽光に多く含まれる可視光をエネルギー源に水から水素を製造
  • 水分解光電極を駆動する新しい原理を発見

概要

東京工業大学 理学院 化学系の前田和彦准教授、田中秀幸大学院生(2017年度修士課程修了)、岡崎めぐみ大学院生・日本学術振興会特別研究員らは、酸化チタンと水酸化コバルトからなる複合材料が可視光照射下で水を分解する光電極[用語1]として機能することを発見した。

紫外光を吸収して水を光分解できる酸化チタンと、水の酸化の優れた触媒となる水酸化コバルトを組み合わせると、水酸化コバルトから酸化チタンへの電子遷移[用語2]に基づく可視光吸収が生じ、これを水の光酸化に利用して実現した。水分解水素製造だけでなく、二酸化炭素光還元[用語3]への応用も期待される。

前田准教授らの発見により、ありふれた物質同士の単純な組み合わせだけで太陽光エネルギーを化学エネルギーへ変換する革新的機能材料を創出できる可能性が見えてきた。

研究成果は1月31日、米国の科学誌「ACS Applied Materials & Interfaces(米国化学会・アプライド マテリアルズ アンド インターフェース)」オンライン版に掲載された。

研究の背景

水を水素と酸素に分解する光電極の開発は太陽光に多く含まれる可視光を化学エネルギーへ変換する“人工光合成”実現の観点から重要な課題である。酸化チタンに代表されるある種の金属酸化物は合成が比較的容易で、化学的にも安定であることから、水分解の光電極材料として広く研究されてきた。だが、それらのほとんどはバンドギャップ[用語4]が大きいため、紫外光しか吸収できないことが大きな問題となっていた。

研究成果

前田准教授らは透明導電性ガラス上に積層した酸化チタン薄膜に水酸化コバルトを析出させた電極が可視光照射下で水を分解する新たな光電極となることを見出した(図1)。酸化チタンや水酸化コバルト単独では同様の機能は得られず、両者を組み合わせることで生まれる可視光吸収能が機能発現の起源となっていることが明らかとなった。

酸化チタンや水酸化コバルトといったありふれた物質のみを用いて、実現困難な可視光水分解をはじめて実現した。この複合光電極は簡便かつ低コストな手法で作成できるという特徴もあわせもっている。

酸化チタンと水酸化コバルトからなる複合材料を用いた可視光照射下での光電気化学的水分解。酸化チタンのバンドギャップ(=伝導帯と価電子帯のエネルギー差)は大きいため400 nm以上の可視光を吸収できないが、水酸化コバルトから酸化チタンへの電子遷移が生じることで幅広い可視光の利用が可能となった。
図1.
酸化チタンと水酸化コバルトからなる複合材料を用いた可視光照射下での光電気化学的水分解。酸化チタンのバンドギャップ(=伝導帯と価電子帯のエネルギー差)は大きいため400 nm以上の可視光を吸収できないが、水酸化コバルトから酸化チタンへの電子遷移が生じることで幅広い可視光の利用が可能となった。

今後の展開

これまで、可視光で水を分解する光電極の開発には、新材料の探索や既知物質の高性能化など多大な努力がなされてきた。今回の前田准教授らの発見により、ありふれた物質同士を簡便な操作で組み合わせるだけで太陽光エネルギーを化学エネルギーへ変換する革新的機能材料を創出できる可能性が見えてきた。

今後、光電極構造・電解条件の最適化を行うことや類似物質の組み合わせを検討することでさらなる性能向上が見込まれる。加えて今回の複合光電極は水分解水素製造だけでなく、二酸化炭素還元のための光電極部材としての応用も期待される。

また、これまでにない新しい動作原理で働く光電極であることから、その学術的な意義は大きく、詳細な機構解明も今後の重要な課題となる。

付記

本研究は京都大学の内本喜晴教授、内山智貴助教のグループとの共同で行った。

本研究は日本学術振興会 科学研究費補助金 新学術領域計画研究「複合アニオン化合物の新規化学物理機能の創出」(代表:前田和彦 東京工業大学 准教授)、基盤研究B「金属酸化物ナノシートと第一遷移金属酸化物ナノ粒子からなる可視光水分解光触媒」(代表:前田和彦 東京工業大学 准教授)等の助成を受けて行った。

用語説明

[用語1] 光電極 : 半導体からなり、光エネルギーを吸収してキャリア(電子と正孔)を生み出すことのできる電極。同じ粒子上で酸化と還元が起こる光触媒に対して、光電極では酸化と還元の反応場を物理的に分離構築できるため、高効率な太陽光エネルギー変換に有利とされる。

[用語2] 電子遷移 : 物質中のあるエネルギー準位に存在する電子がより高いエネルギーの別の準位へと移動すること。電子の“行き先”は同じ物質内に限らず、それと接している別の物質でも良い。

[用語3] 二酸化炭素(CO2)還元 : 地球温暖化の原因物質であるCO2を、ギ酸や一酸化炭素などの高エネルギー物質に変換すること。特に光エネルギーを利用する場合を二酸化炭素光還元と呼ぶ。効率的な触媒、あるいは光触媒を作り出す研究に、学術面のみならず環境面での関心も高まっている。

[用語4] バンドギャップ : 半導体において電子で占有されたバンドを価電子帯、空のバンドを伝導帯といい、価電子帯と伝導帯の幅の大きさをバンドギャップという。電子は伝導帯の下端を、正孔は価電子帯の上端を動く。

論文情報

掲載誌 :
ACS Applied Materials & Interfaces
論文タイトル :
Water Oxidation through Interfacial Electron Transfer by Visible Light Using Cobalt-Modified Rutile Titania Thin Film Photoanode
著者 :
Hideyuki Tanaka, Tomoki Uchiyama, Nozomi Kawakami, Megumi Okazaki, Yoshiharu Uchimoto, Kazuhiko Maeda
DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 理学院 化学系

准教授 前田和彦

E-mail : maedak@chem.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2239 / Fax : 03-5734-2284

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


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