要点
- ハスの葉表面のナノ構造を鋳型に高効率で大面積の光吸収構造を作製
- 光をトラップして反射率1%以下の光吸収構造を実現
- 太陽電池の効率向上や光熱変換素子への応用に期待
概要
東京工業大学大学院総合理工学研究科の梶川浩太郎教授と、修士課程2年海老原佑亮、芝浦工業大学工学部の下条雅幸教授は共同で、ハス(蓮)の葉のナノ構造を鋳型に使い、高効率で大面積の「超薄膜光吸収メタマテリアル」の作製に成功した。
研究グループは高分解能走査型電子顕微観察により、ハスの葉の表面に直径100nm程度の多数のマカロニ状のナノ構造があることを見いだし、その上に膜厚10~30nmの金を被覆するだけで、照射された光をトラップして外に逃がさない光メタマテリアル[用語1]構造を作製した。このメタマテリアルはすべての可視光領域で反射率が1%以下という良好な光吸収構造[用語2]となっている。
この成果は、生体が持つナノ構造を鋳型とすれば、様々な機能を持つ大面積のメタマテリアル(バイオ・メタマテリアル)を低コストに作製することにつながると期待される。研究成果は、英科学誌ネイチャーグループのオンラインジャーナル「サイエンティフィック・リポーツ(Scientific Reports)」に11月4日掲載された。
研究成果
東工大の梶川教授、芝浦工大の下条教授らの共同研究グループは、ハスの葉を金の薄膜で被覆するだけで、表面に照射した光を吸収する大面積光メタマテリアル構造を作製した。その写真を図1(a)に示す。中心部分が光を吸収するため黒く、固定のためのテープの表面は金色である。いずれも金が被覆されているが、その違いは明らかである。金を被覆しても黒くなる性質は、図1(b)に示すハスの葉が持つ多数のマカロニ状のナノ構造が光をトラップするためと考えられる。
比較のため、同じように金で被覆してもドクダミの葉は図1(c)に示すように金色をしている。ヨモギやサンショウ(山椒)の葉を被覆しても同様に金色であった。ドクダミの葉の表面の電子顕微鏡像を図1(d)に示す。ドクダミはナノ構造を持たないことから、ハスの葉のナノ構造が光のトラップに重要な役割を果たしていることがわかる。
この構造は10~30nmという極めて薄い金属膜で光吸収構造が構築できるため、太陽電池の効率向上や高効率の光熱変換材料として期待できる。また、自然界のナノ構造を使った様々な大面積光メタマテリアル実現の可能性を示唆する。
- 図1.
- (a)ハスの葉を30nm厚の金で被覆したメタマテリアル (b)ハスの葉の電子顕微鏡写真 (c)ドクダミの葉を30nm厚の金で被覆した試料 (d)ドクダミの葉の電子顕微鏡写真
研究の背景
光メタマテリアルは人工的なナノ構造を使った特異な光学的性質を示す物質である。負の屈折や物質の不可視化(クローキング)、高効率光吸収構造などに利用できる可能性があるため、多くの研究者の注目を集めている。光メタマテリアルの多くは、これまで微細加工技術を使って作製されてきた。そのため、低コストで大面積の光メタマテリアルを作製することは難しかった。
研究グループは自然界のナノ構造を利用して、特異な光学的性質を持つ人工材料の作製に成功した。自然界のナノ構造を利用すれば低コストで大面積のメタマテリアルが作製できる可能性があるため、基礎的な興味だけでなく応用上も意義がある。今回は高効率な光を吸収する構造を研究した。
研究の経緯
図2(a)に示すようにハスは夏に綺麗な花を咲かせるが、その葉の表面は強い撥水性(水を弾く性質)を持つ。これは、図2(b)に示すような表面のミクロな凹凸のこぶ構造が撥水性を強めているためである。このミクロなこぶ構造に加えて、こぶの表面に図1(b)に示した多数のマカロニ状のナノ構造が分布している。それらの模式図を図3に示した。これを鋳型として利用すれば光メタマテリアルを作製できると考えて研究を行った。
図2.
図3.
今後の展開
自然界にはさまざまなナノ構造が多数存在し、今後、多様な性質を持つ光メタマテリアルが作製できると期待される。
用語説明
[用語1] メタマテリアル : 人工的なナノ構造を使った特異な光学的性質示す物質。負の屈折や物質の不可視化(クローキング)、高効率光吸収構造などに利用できる可能性がある。
[用語2] 光吸収構造 : 光を効率よく吸収する物質。太陽電池や光検出器、光熱変換素子などに利用できる。また、光をよく吸収する物質は、高効率に光を輻射するので特に赤外領域の発光素子として利用できる。
論文情報
掲載誌 : |
Scientific Reports |
論文タイトル : |
Biometamaterials:Black Ultrathin Gold Film Fabricated on Lotus Leaf |
著者 : |
Yuusuke Ebihara, Ryoichi Ota, Takahiro Noriki, Masayuki Shimojo and Kotaro Kajikawa
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DOI : |
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