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海洋マントルの有機炭素検出 南太平洋アイツタキ島マントル捕獲岩からのアプローチ

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要点

  • 南太平洋アイツタキ島のマントル捕獲岩から、深部海洋マントルには表層に存在した有機炭素が存在することを明らかにしました。
  • マントル中の炭素系物質であるダイヤモンドは、海洋マントルの炭素解析において人的混入の可能性が指摘されていましたが、同じく炭素系物質である炭酸塩鉱物をマイクロスケールで解析することでその問題を克服しました。
  • 本研究成果により、海洋深部マントルまで達する表層からの炭素循環実態解明への貢献が期待されます。

炭酸塩鉱物のマイクロスケール解析

炭酸塩鉱物のマイクロスケール解析

概要

東京工業大学 理学院 地球惑星科学系の石川晃准教授は、東京大学 大気海洋研究所の秋澤紀克助教を中心に、京都大学 大学院人間・環境学研究科、広島大学 大学院先進理工系科学研究科、千葉工業大学 次世代海洋資源研究センターのメンバーで構成される共同研究チームと、南太平洋アイツタキ島のマントル捕獲岩[用語1]を用いて、海洋域のマントル[用語2]有機炭素[用語3]を含むことを明らかにしました。本研究では、南太平洋・クック諸島の島であるアイツタキ島で採取されたマントル捕獲岩(図1)に含まれるマントル由来の炭素系物質である炭酸塩鉱物[用語4]をマイクロスケールで解析し、その起源は表層から運ばれた有機炭素であることを解明することができました。先行研究では、海洋域のマントル由来ダイヤモンドが、炭素解析において人的に混入した可能性が指摘されており、海洋域のマントルの炭素解析結果が問題視されていました。本研究成果から、海洋域では深部マントルまで達する表層からの炭素循環経路があると推察でき、地球規模での炭素循環実態解明への貢献が期待されます。

本研究成果は、8月1日に「Marine Geology」に掲載されました。

図1 アイツタキ島産のマントル捕獲岩の切断断面と鉱物分布解釈図 (a) 岩石の切断面イメージ。 (b) 岩石を構成する鉱物分布解釈図。左下の水色は、マントル捕獲岩の周りの玄武岩部分。マントル捕獲岩は、カンラン石[用語5]-直方輝石[用語6]-単斜輝石[用語7]-スピネル[用語8]-ザクロ石[用語9]分解物(細粒鉱物集合体)から成ります。

図1. アイツタキ島産のマントル捕獲岩の切断断面と鉱物分布解釈図

(a) 岩石の切断面イメージ。 (b) 岩石を構成する鉱物分布解釈図。左下の水色は、マントル捕獲岩の周りの玄武岩部分。マントル捕獲岩は、カンラン石[用語5]-直方輝石[用語6]-単斜輝石[用語7] -スピネル[用語8]-ザクロ石[用語9]分解物(細粒鉱物集合体)から成ります。

発表内容

現在温暖化が進んでいる地球において、全球的な炭素循環の実態解明は急務となっています。特に、表層を起源とする炭素がマントル中に存在するのか明らかにすることは、マントルを炭素の貯蔵庫と捉える上で重要です。このたび、本共同研究チームは、クック諸島・アイツタキ島に産するマントル捕獲岩に見られる特異な細粒鉱物集合体(図1)が、高圧(~70 km以深)由来のザクロ石が分解してできたものであることに着想を得て、そのザクロ石分解物中に“保護”されていたマイクロスケールの炭酸塩鉱物脈の炭素と酸素の同位体[用語10]分析を実施しました(図2)。詳細な組織観察結果から、この炭酸塩鉱物脈はマントル中で形成されたと考えられるため、マントル中に存在する炭素の起源を明らかにすることができると期待できます。

図2 炭酸塩鉱物のマイクロスケール解析 (a) 炭酸塩鉱物脈の写真。ザクロ石分解物である細粒集合体中のスピネルに発達する脈が炭酸塩鉱物から成ります。 (b) 炭酸塩鉱物脈の採取図。細い針で炭酸塩脈を掘り出し、それを集めて炭素・酸素同位体分析を実施しました。

図2. 炭酸塩鉱物のマイクロスケール解析

(a) 炭酸塩鉱物脈の写真。ザクロ石分解物である細粒集合体中のスピネルに発達する脈が炭酸塩鉱物から成ります。 (b) 炭酸塩鉱物脈の採取図。細い針で炭酸塩脈を掘り出し、それを集めて炭素・酸素同位体分析を実施しました。

本研究で使用した炭酸塩鉱物と同様に炭素から成る物質であるダイヤモンドは、マイクロスケールでサイズがとても小さいながらも海洋域のマントル中から報告されていました。しかし、その海洋ダイヤモンドは人的混入物である可能性が指摘されており、その解析結果が問題視されていました。本研究で新たに発見した上記の“保護”された炭酸塩鉱物脈は、マントルのカケラであるマントル捕獲岩が地球深部約70 kmでマグマにより捕獲された後に表層に向かって上昇する途中、マグマがマントル捕獲岩中に侵入する際に形成されたものであり、そのマグマの初生的な炭素記録を保持しています。本研究では、そのマイクロスケールの炭酸塩鉱物脈を採取し、京都大学の極微量安定同位体分析装置(MICAL3c)を用いて炭素と酸素同位体分析を実施しました(図2)。その結果、炭酸塩鉱物脈を作ったマグマの初生的な組成は一般的なマントルの組成と異なり、有機物由来の海洋炭酸塩組成側に外れていることがわかりました(図3)。そのため、マントル中には表層からの有機炭素を起源とする炭素が存在し、マグマ活動を通してそれが表層に放出されることを明らかにすることができました。以上の結果から、海洋域では深部マントルまで達する表層からの炭素循環経路があると推察でき、全球規模での炭素循環実態解明への貢献が期待されます。

図3 炭素・酸素同位体組成図 アイツタキ島のマントル捕獲岩中の炭酸塩鉱物の組成を赤丸で示します。他に、マントル(緑)、大気CO2(灰色)、太平洋堆積物(水色)の組成範囲、有機物由来の海洋炭酸塩の組成プロットを示しています。本研究の炭酸塩鉱物組成は典型的なマントル組成から外れており、有機物由来の海洋炭酸塩の組成範囲に入ります。これは、炭酸塩鉱物の炭素起源が表層由来であったことを示唆します。

図3. 炭素・酸素同位体組成図

アイツタキ島のマントル捕獲岩中の炭酸塩鉱物の組成を赤丸で示します。他に、マントル(緑)、大気CO2(灰色)、太平洋堆積物(水色)の組成範囲、有機物由来の海洋炭酸塩の組成プロットを示しています。本研究の炭酸塩鉱物組成は典型的なマントル組成から外れており、有機物由来の海洋炭酸塩の組成範囲に入ります。これは、炭酸塩鉱物の炭素起源が表層由来であったことを示唆します。

発表者・研究者等情報

東京工業大学 理学院 地球惑星科学系

石川晃 准教授

東京大学 大気海洋研究所

秋澤紀克 助教(兼:東京学芸大学 非常勤講師)

京都大学 大学院人間・環境学研究科

石村豊穂 教授
小木曽哲 教授

広島大学 大学院先進理工系 科学研究科 地球惑星システム学プログラム

芳川雅子 特任教授(兼:広島大学 プレート収束域の物質科学研究拠点 特任教授)

千葉工業大学 次世代海洋資源研究センター

見邨和英 主任研究員(現:産業技術総合研究所 地質調査総合センター 研究員)

付記

本研究は、科研費「基盤研究(B)(課題番号:23H01267)」、「基盤研究(B)(課題番号:23H01269)」、「基盤研究(B)(課題番号:24K00733)」、「基盤研究(C)(課題番号:23K03544)」、「基盤研究(C)(課題番号:24K07189)」、「新学術領域研究(研究領域提案型)(課題番号:JP15H05831)」の支援により実施されました。

用語説明

[用語1] マントル捕獲岩 : 地球深部のマントル [用語2] は、カケラとしてマグマに取り込まれて地球表面に運ばれます。それを、マントル捕獲岩と呼びます。

[用語2] マントル : 我々が住んでいる地球表面の地殻の下には、マントルが存在します。マントルの下には金属で形成される核が存在しており、地球は成層構造をしています。

[用語3] 有機炭素 : 有機物を構成する炭素です。

[用語4] 炭酸塩鉱物 : 1個の炭素原子の周りに3個の酸素が配置した炭酸イオン CO32- が結晶構造を形作る鉱物です。代表的なものとしては方解石(CaCO3)であり、本研究ではこの方解石を解析に用いました。

[用語5] カンラン石 : マントル物質を構成する鉱物の中で最も多く、主にマグネシウムや鉄、ケイ素を含む緑色のケイ酸塩鉱物です。ペリドットと呼ばれる宝石として親しまれています。

[用語6] 直方輝石 : 主にマグネシウムや鉄、ケイ素を含むケイ酸塩鉱物です。マントル物質によく含まれます。

[用語7] 単斜輝石 : カルシウムを多く含み、他にマグネシウムや鉄、ケイ素を含むケイ酸塩鉱物です。マントル物質によく含まれます。

[用語8] スピネル : マントル物質の中で組成変化に伴い赤色から黒色を示し、主にアルミニウムやクロム、鉄、マグネシウムを含む酸化鉱物です。

[用語9] ザクロ石 : マントル物質の中で赤色を示し、アルミニウムやカルシウム、マグネシウム、鉄、ケイ素などを主に含む鉱物です。ガーネットと呼ばれる宝石として親しまれています。

[用語10] 同位体 : 原子番号が同じで、質量数が異なる元素(原子核の陽子数が同じで、中性子数が異なる元素)を同位体と言います。

論文情報

掲載誌 :
Marine Geology
論文タイトル :
Stable carbon and oxygen isotope signatures of mantle-derived calcite in Aitutaki lherzolite xenolith: Implications for organic carbon cycle in the oceanic mantle
著者 :
Norikatsu Akizawa*, Toyoho Ishimura, Masako Yoshikawa, Tetsu Kogiso, Akira Ishikawa, Kazuhide Mimura
DOI :

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理学院

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お問い合わせ先

東京工業大学 理学院 地球惑星科学系

准教授 石川晃

Email akr@eps.sci.titech.ac.jp

東京大学 大気海洋研究所 海洋地球システム研究系 海洋底科学部門

助教 秋澤紀克

Email akizawa@g.ecc.u-tokyo.ac.jp
Tel 04-7136-6142

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

Email media@jim.titech.ac.jp
Tel 03-5734-2975 / Fax 03-5734-3661

東京大学 大気海洋研究所 広報戦略室

Email kouhou@aori.u-tokyo.ac.jp

京都大学 渉外・産官学連携部 広報課 国際広報室

Email comms@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp
Tel 075-753-5729 / Fax 075-753-2094

広島大学 広報室

Email koho@office.hiroshima-u.ac.jp
Tel 082-424-3749 / Fax 082-424-6040

千葉工業大学 入試広報部

Email cit@it-chiba.ac.jp
Tel 047-478-0222


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