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スマートモビリティデジタルツインを用いた自律と遠隔のハイブリッドな自動運転を実現 安心安全なまちづくりと交通システム全体の最適化に貢献

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要点

  • 実世界の交通状況をサイバー空間にリアルタイムに再現するスマートモビリティデジタルツインを実現
  • 大学キャンパス内のフィールドを活用したスマートモビリティデジタルツインを構築し、自律と遠隔のハイブリッドな自動運転に成功
  • 交通の安全性と効率性の両方を同時に改善し、交通システム全体の最適化に貢献すると期待

概要

東京工業大学 工学院 電気電子系の阪口啓教授の研究グループとバージニア工科大学のWalid Saad(ワリッド サード)教授の研究グループは共同で、実世界の交通状況をサイバー空間にリアルタイムに再現するスマートモビリティデジタルツイン[用語1]を実現し、スマートモビリティデジタルツインを用いた自律と遠隔のハイブリッドな自動運転に成功した。

フィジカル空間(実世界)の物体やシステムをサイバー空間に再現するデジタルツイン技術は、製造・建設分野では急速に発展しているが、ダイナミックスが高いモビリティ分野ではこれまで実現していなかった。

本研究では、東京工業大学大岡山キャンパスのスマートモビリティ教育研究フィールドを活用したスマートモビリティデジタルツインを構築した。さらに、このデジタルツインを用いた、自律と遠隔のハイブリッドな自動運転の実証システムを構築した。このシステムを用いた実証実験では、フィジカル空間で自動運転車が自律走行する場合に、デジタルツインがより安全で効率的な経路を探索し、その経路を自動運転車へフィードバックすることで、自律と遠隔のハイブリッドな自動運転が可能であることを確認した。

これにより、自動運転車のローカルな環境観測に基づく経路計画と、デジタルツインによるグローバルな環境観測に基づく経路計画を、V2X[用語2]通信を介して融合させることが可能になり、交通の安全性と効率性の両方を同時に改善可能になる。

本研究成果は、2024年2月21日付で「IEEE Transactions on Intelligent Vehicles」に速報版が公開され、5月3日に正式版が掲載された。

背景

フィジカル空間(実世界)の物体やシステムをサイバー空間に再現するデジタルツインの技術は、製造や建設などの第二次産業の分野で急速に発展した。近年では医療や教育、Eコマースなどの第三次産業に応用され、農業や漁業などの第一次産業にも拡張されつつある。デジタルツインのメリットは、サイバー空間におけるコンピュータビジョンを活用した可視化だけでなく、センサやIoTを活用した物体やシステムのリアルタイムな状態の把握、シミュレーションやAI/生成AIを活用した予測、予測に基づいたシステムの最適制御や異常回避にある。デジタルツイン構築の難易度は、物体やシステムのダイナミックスによって異なる。製造分野や建設分野では、ダイナミックスが低いためデジタルツインの導入が容易であるが、モビリティ分野はダイナミックスが高いため、これまでデジタルツインが実現されてこなかった。

こうした背景を受けて、東京工業大学とバージニア工科大学は2022年度より、日本の情報通信研究機構(NICT)および米国の国立科学財団(NSF)の共同委託研究である「Society 5.0を実現するIoFDT(Internet of Federated Digital Twin)のためのワイヤレス・エッジコンピューティング・サービスプラットフォームの研究開発」に取り組み、スマートモビリティデジタルツインを構築するとともに、世界初となるスマートモビリティデジタルツインを用いた自律と遠隔のハイブリッドな自動運転に成功した。

研究成果

1. スマートモビリティデジタルツイン
今回構築したスマートモビリティデジタルツインでは、東京工業大学大岡山キャンパスのスマートモビリティ教育研究フィールドをフィジカル空間として、サイバー空間に再現した。このスマートモビリティ教育研究フィールドは、東京工業大学が超スマート社会推進コンソーシアム の参加機関と連携して、2019年度より大岡山キャンパスに構築してきたもので、レベル4/5の自律走行[用語3]が可能な自動運転車が2台配備され、次世代ITS[用語4]に導入予定の路側機[用語5]が4台設置されている。路側機には、LiDAR[用語6]やカメラなどのセンサ、760 MHz・5.7 GHz・60 GHzをサポートするV2X通信、エッジコンピューティング(MEC)、およびクラウドへのバックホールネットワークが配備されており、インフラ協調による安全運転支援が実現されている。このモビリティフィールドでは、デジタルツイン上でリアルタイムに衝突予測や経路計画などを行うことで、安全運転支援を可能にする。

構築されたスマートモビリティデジタルツイン(図1)は、フィジカル空間(自動運転車と路側機)とサイバー空間(3D可視化ソフトウェア、ROS(Robot Operating System)、自動運転システム用ソフトウェアパッケージ(Autoware)、大岡山ポイントクラウドマップ/3Dマップ)に加えて、仮想化プラットフォーム(エッジ/クラウドサーバ、オーケストレータ)と、これらの基盤上で動作する動的なスマートモビリティアプリケーションから構成されている。

自動運転車や路側機などのエッジサーバでは、LiDARやカメラなどを用いて周辺の自動車・自転車・歩行者などの交通参加者を検知し、車両周辺や交差点などの狭域デジタルツインを構築する。さらに複数の車両や路側機で検出された物標情報をクラウドに集約し、ポイントクラウド/3Dマップに重畳することで、フィールド全体の広域デジタルツインが構築される。狭域のデジタルツインと広域のデジタルツインからなる階層化構造(階層数は任意)を取り入れることで、衝突回避や配送最適化などの異なる要求条件を持つスマートモビリティのユースケースを両立することが可能になる。

図1 スマートモビリティデジタルツインのシステム構成

図1. スマートモビリティデジタルツインのシステム構成

図2 に大岡山スマートモビリティデジタルツインの例を示す。最下部にフィジカル空間における車両や路側機の写真が表示され、最上部にはサイバー空間の3Dマップに重畳された自動車(青)や歩行者(ピンク)の情報がリアルタイムに表示される。狭域デジタルツインでは10 ms程度、広域デジタルツインでは100 ms程度の遅延が存在するが、フィジカル空間とサイバー空間がほぼリアルタイムに同期していることが分かる。真ん中はポイントクラウドに重畳された検出結果が、LiDARなどの検出範囲と共に示されている。複数の路側機での検出結果が統合されていることが分かる。

図2 大岡山スマートモビリティデジタルツイン

図2. 大岡山スマートモビリティデジタルツイン

2. 自律と遠隔のハイブリッド自動運転
自律と遠隔のハイブリッドな自動運転では、自動運転車のローカルな環境観測に基づく経路計画と、デジタルツインによるグローバルな環境観測に基づく経路計画を、V2X通信を介して融合させることで、交通の安全性と効率性の両方を同時に改善できるようになる。そうした自律と遠隔のハイブリッド自動運転の実証システム(図3)では、自動運転車のデジタルツインをサイバー空間に構築し、サイバー空間の広域デジタルツイン上で経路計画を行い、選択された経路をフィジカル空間の自動運転車にフィードバックする。これにより、フィジカル空間の自動運転車が、デジタルツイン上で選択された経路と自車のセンサを用いて自律型の車両制御を行うハイブリッド自動運転システムを、世界に先駆けて実現した。

自律型自動運転の視界は、人間が運転する場合と同様に車両の周辺に限られるのに対して、広域デジタルツインでは自動運転の経路上やその周辺の道路の状況をリアルタイムにかつ俯瞰的に観測できるため、より安全で効率的な経路をリアルタイムに選択することが可能になる。実証システムを用いた実証実験では、自律走行している自動運転車に対して、サイバー空間上の自動運転車が広域デジタルツインを用いて経路上の停車車両と多数の歩行者を検知した。そのため、より安全で効率的な周辺道路へ経路変更を行い、変更された経路をフィジカル空間の自動運転車にフィードバックすることで、自律と遠隔のハイブリッド自動運転が実現されることを確認した(動画1)。

図3 ハイブリッド自動運転

図3. ハイブリッド自動運転

動画1. スマートモビリティデジタルツインを用いた自律と遠隔のハイブリッド自動運転

社会的インパクト

本研究で構築したスマートモビリティデジタルツインと、自律と遠隔のハイブリッド自動運転技術は、自動運転の安全性と効率性を向上させるだけでなく、安心安全なまちづくりや交通システム全体の最適化に大きく貢献する。

今後の展開

今後の社会実装には路側機などのインフラが必要になるが、その際には、例えば既に設置されている見守りカメラへのデジタルツインの導入や、通学路へのスマートポールの設置など、社会的ニーズとコストを勘案した公共政策が必要となる。

付記

本研究の一部は、NICT-JUNO 「高度通信・放送研究開発委託研究(#22404)」の助成を受けて行われた。

用語説明

[用語1] デジタルツイン : 実世界の物体、システム等をサイバー空間上で緻密に再現する仮想モデル。現実の状態をリアルタイムで反映・分析し、最適化や予測を可能にする。

[用語2] V2X : 自動車が他の車両、交通インフラ、歩行者などと通信する技術。

[用語3] レベル4/5の自律走行 : 運転者の介入がほとんど必要ない高度な自動運転技術。レベル4では特定の条件下で、レベル5では全ての状況で、完全に自律的に走行できる。

[用語4] 次世代ITS : 情報通信技術を活用し、交通の安全性、効率性、快適性を向上させる高度道路交通システム。

[用語5] 路側機(RSU) : 交通インフラの一部として道路脇に設置される通信装置。交通環境の認識や、車両や歩行者との情報交換を行い、交通の安全性や効率性を向上させる目的で使用される。

[用語6] LiDAR : レーザを利用して対象物の距離や形状を測定するセンサ技術。自動運転車両などにおいて周囲の環境を3Dで把握するために使用される。

論文情報

掲載誌 :
IEEE Transactions on Intelligent Vehicles(vol. 9, no. 3, March 2024)
論文タイトル :
Smart Mobility Digital Twin Based Automated Vehicle Navigation System: A Proof of Concept
著者 :
Kui Wang, Zongdian Li, Kazuma Nonomura, Tao Yu, Kei Sakaguchi, Omar Hashash, Walid Saad
DOI :

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お問い合わせ先

東京工業大学 工学院 電気電子系

教授 阪口啓

Email sakaguchi@mobile.ee.titech.ac.jp
Tel 03-5734-3910

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

Email media@jim.titech.ac.jp
Tel 03-5734-2975 / Fax 03-5734-3661


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