要点
- 南太平洋アイツタキ島のマントル捕獲岩から、海洋マントルでは小スケール対流が起こっていることを世界で初めて直接実証しました。
- これまで、海洋マントルの小スケール対流は地球物理学的データからその存否が議論されてきましたが、初めて物質(マントル捕獲岩)から海洋マントルの小スケール対流の存在を実証することに成功しました。
- 本研究成果により、小スケール対流の開始時期が推定できるようになるため、地球冷却モデルの高精度化への貢献が期待されます。
概要
東京工業大学 理学院 地球惑星科学系の石川晃准教授は、東京大学 大気海洋研究所の秋澤紀克助教、小澤一仁特任研究員、同大学 大学院理学系研究科の大嶋ちひろ大学院生(研究当時)を中心として、京都大学 大学院人間・環境学研究科、京都大学 理学研究科、東京学芸大学 教育学部、静岡大学 理学部、金沢大学 理工研究域のメンバーで構成される共同研究チームで、南太平洋アイツタキ島のマントル捕獲岩[用語1]を用いて、海洋域のマントル[用語2]で小スケール対流[用語3]が発生していることを明らかにしました。本研究では、南太平洋・クック諸島の島であるアイツタキ島で採取されたマントル捕獲岩(図1)を用いて、詳細な岩石記載、構造解析、化学分析、数値モデリングを実施することで、小スケール対流の証拠となるマントルの下降流と上昇流を世界で初めて物質的に実証することに成功しました。先行研究ではアイツタキ島のマントル捕獲岩にザクロ石[用語4]と呼ばれる高圧を示す鉱物が確認できていませんでしたが、本研究で実施した細粒分解物(あるいは細粒鉱物集合体)のナノスケールにまで及ぶ詳細な解析から、細粒分解物がザクロ石であると証明した点で新規性があります。この研究成果から小スケール対流の開始時期が推定できるようになるため、今後地球の冷却モデルの高精度化への貢献が期待されます。
発表内容
小スケール対流は地球の冷却を促進させる効果があるため、その存否を知ることは地球の冷却史を正確に推定する上で重要です。しかし、小スケール対流の存否は地球物理学的観測、アナログ物質を用いた実験、物理モデルから議論されてきており、物質的な実証はこれまでなされておりませんでした。このたび、本研究チームはクック諸島・アイツタキ島に産するマントル捕獲岩に見られる特異な細粒鉱物集合体(図2)が、ザクロ石が分解してできたものであることを証明しました。ザクロ石はマントル中では高圧下(~70km以深)でのみ安定であるため、ザクロ石が含まれていたということは地球深部情報を保持しているということが期待されます。
本研究で発見したザクロ石分解物中にはスピネル[用語5]が包有されており、ザクロ石分解物周囲はカンラン石[用語6]が多く直方輝石[用語7]や単斜輝石[用語8]が少ないことが観察されました(図1)。その組織的な特徴から、マントル捕獲岩が圧力上昇=下降運動を経験し、スピネル+直方輝石+単斜輝石→カンラン石+ザクロ石という鉱物相変化が起こったことを検証しました。一方で、同岩石サンプルの直方輝石には元素拡散に伴う粒子中心から端に向かう化学組成変化が認められました(図3)。その化学組成変化は、温度―圧力変化に応答して鉱物が化学的平衡を保つために連続的に起こったものであり、元素拡散モデリングを適用することで、0.24~0.6 cm/年の圧力減少=上昇運動速度を推定しました。そして、マントル捕獲岩がマグマによってアイツタキ島に運ばれる途中で、急激な圧力減少を経験することで細粒鉱物集合体(図2)に分解してしまったということを明らかにしました。
以上の結果を考慮すると、太平洋プレート[用語9]が形成されて1億年ほど経過した海洋マントルでは小スケール対流が起こっており、その下降運動と上昇運動が今回研究で使用したマントル捕獲岩に記録されたということが確認されました(図4)。本研究を通して海洋マントルにおける小スケール対流が検出されたことにより、その対流開始時期が海洋プレート形成後1億年以前であることがわかるため、地球冷却モデルの高精度化への貢献が期待されます。
発表者・研究者等情報
東京工業大学 理学院
石川晃 准教授
藤田遼 研究当時:博士課程
東京大学
大気海洋研究所
秋澤紀克 助教(兼:東京学芸大学 非常勤講師)
小澤一仁 特任研究員
大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻
ウォリス・サイモン 教授
大嶋ちひろ 研究当時:修士課程
京都大学
大学院人間・環境学研究科
小木曽哲 教授
理学研究科
三宅亮 教授
伊神洋平 助教
安本篤 研究当時:博士課程
東京学芸大学 教育学部
永冶方敬 講師(兼:東京大学大学院理学系研究科 客員共同研究員)
静岡大学 理学部
川本竜彦 教授
金沢大学 理工研究域
森下知晃 教授
田村明弘 研究員
荒井章司 名誉教授
付記
本研究は、科学研究費助成事業「基盤研究(B)(課題番号:23H01267)」、「基盤研究(B)(課題番号:23H01269)」、「基盤研究(B)(課題番号:24K00733)」、「基盤研究(C)(課題番号:23K03544)」、「基盤研究(C)(課題番号:24K07189)」、「新学術領域研究(研究領域提案型)(課題番号:JP15H05831)」、「国際共同研究強化(B)(課題番号:20KK0079)」の支援により実施されました。
用語説明
[用語1] マントル捕獲岩 : 地球深部マントル(用語2)は、カケラとしてマグマに取り込まれて地球表面に運ばれます。それを、マントル捕獲岩と呼びます。
[用語2] マントル : 我々が住んでいる地球表面の地殻の下には、マントルが存在します。マントルの下には金属で形成される核が存在しており、地球は成層構造をしています。
[用語3] 小スケール対流 : 海洋プレートができる海嶺からある距離離れた海洋プレートの直下では、数100 kmスケールでマントルが対流していると考えられています。これは、地球表層から冷却が進む一方で、リソスフェアが一方向に動くことにより引き起こされる対流様式であり、数値的・解析的な研究により初めて報告されました。
[用語4] ザクロ石 : マントル物質の中で赤色を示し、アルミニウムやカルシウム、マグネシウム、鉄、ケイ素などを主に含む鉱物です。ガーネットと呼ばれる宝石として親しまれています。
[用語5] スピネル : マントル物質の中で組成変化に伴い赤色から黒色を示し、主にアルミニウムやクロム、鉄、マグネシウムを含む酸化鉱物です。
[用語6] カンラン石 : マントル物質を構成する鉱物の中で最も多く、主にマグネシウムや鉄、ケイ素を含む緑色のケイ酸塩鉱物です。ペリドットと呼ばれる宝石として親しまれています。
[用語7] 直方輝石 : 主にマグネシウムや鉄、ケイ素を含むケイ酸塩鉱物です。マントル物質によく含まれます。
[用語8] 単斜輝石 : カルシウムを多く含み、他にマグネシウムや鉄、ケイ素を含むケイ酸塩鉱物です。マントル物質によく含まれます。
[用語9] 太平洋プレート : 我々が住む日本に沈み込んでいる、海洋プレートの一枚です。
論文情報
掲載誌 : |
Progress in Earth and Planetary Science (PEPS) |
論文タイトル : |
Evidence for suboceanic small-scale convection from a “garnet”-bearing lherzolite xenolith from Aitutaki Island, Cook Islands |
著者 : |
Norikatsu Akizawa*, Kazuhito Ozawa, Tetsu Kogiso, Akira Ishikawa, Akira Miyake, Yohei Igami, Simon R. Wallis, Takayoshi Nagaya, Chihiro Ohshima, Ryo Fujita, Tatsuhiko Kawamoto, Akihiro Tamura, Tomoaki Morishita, Shoji Arai, Atsushi Yasumoto |
DOI : |
- プレスリリース 海洋マントルにおける小スケール対流の証拠検出 —南太平洋アイツタキ島マントル捕獲岩からのアプローチ—
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お問い合わせ先
東京工業大学 理学院 地球惑星科学系
准教授 石川晃
Email akr@eps.sci.titech.ac.jp
Tel 03-5734-3982
東京大学 大気海洋研究所
助教 秋澤紀克
Email akizawa@g.ecc.u-tokyo.ac.jp
Tel 04-7136-6142
金沢大学 理工研究域地球社会基盤学系
教授 森下知晃
Email moripta@staff.kanazawa-u.ac.jp
Tel 076-264-6532
取材申し込み先
東京工業大学 総務部 広報課
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東京大学 大気海洋研究所 広報戦略室
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京都大学 渉外・産官学連携部 広報課国際広報室
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Tel 075-753-5729 / Fax 075-753-2094
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