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超分子化学:分子で分子を包む プレスセミナーを開催

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11月21日、理学院 化学系の山科雅裕助教によるプレスセミナーを大岡山キャンパスにて行いました。

一般に、分子は強い共有結合で構成され、分子単体で機能します。一方で、複数の原子あるいは分子が静電相互作用などの弱い結合で集合したものを超分子とよびます。ナノサイズの空間を持つ分子(ホスト分子)は、超分子的な力を使って他の分子を捕まえることができます。これら超分子は、単分子と異なり集合体として新たな性質と機能をもつようになります。

今回のセミナーでは、以下の3つのトピックスについて説明がありました。

1.
超分子化学の概要(身の回りの超分子化学)
2.
最新の研究成果「分子カプセルのナノ空間が魅せる特異な空間機能」
3.
最新の研究成果「反芳香族分子に囲まれたナノサイズの異空間」

山科助教は、分子カプセルの模型を使いながら、新しい分野の研究成果をわかりやすく説明しました。メディアの方々の関心も非常に高く活発な議論が行われました。

プレスセミナーの様子

プレスセミナーの様子

1. 超分子化学の概要(身の回りの超分子化学)

1967年、チャールズ・ペダーセンが王冠状のホスト分子、クラウン・エーテル[用語1]を発見したことを機に超分子化学の研究分野は始まりました。

生活に使われているホスト分子の一つにシクロデキストリンがあります。シクロデキストリンはブドウ糖がドーナツ状に結合した構造をもち、親油性の空洞部分にいろいろな有機分子を取り込むことができます。例えば、食事中の余分な脂分を取り込んで体外に排出し、また、苦みのある成分を取り込んで苦みを感じないようにするといった機能をもちます。このようにナノ空間を有するホスト分子は、(1)他の分子を包み込み、(2)包んだ分子の性質を変える、というユニークな性質をもっています。そのため、現在も世界中の研究者によって様々なホスト分子が作られ、その性質を解明する研究が進められています。

2. 最新の研究成果「分子カプセルのナノ空間が魅せる特異な空間機能」

東京工業大学 科学技術創成研究院の吉沢道人准教授は、2011年にアントラセン[用語2]で構成されたカプセル状のホスト分子(分子カプセル)を作ることに成功しています。山科助教は吉沢准教授と共同で、この分子カプセルが他の分子を包みこむことにより、次のような機能をもたらすことがわかりました。

不安定分子の安定化・特異蛍光性・精密分子認識・生体機能模倣・特異構造変換・空間内反応

不安定分子の安定化の例:

光や熱に不安定な分子(ラジカル開始剤)は、分子カプセルに取り込まれることで飛躍的に安定化することが分かりました。これは、包まれた化合物が、分子カプセルがもつ光を吸収する作用(光遮蔽効果)により、光から保護されたためです。また、熱に不安定な化合物の場合、熱によって化合物の化学結合が伸び、ある段階を超えると結合が切れて分解されます。ところが分子カプセルの限られた大きさの空間内では、結合を伸ばすことができないため熱にも安定になります。これを圧縮効果といい、通常の700倍以上の安定性を示しました。

精密分子認識の例:

男性ホルモンのテストステロン、女性ホルモンのプロゲステロン、エストラジオールは非常に似た構造をしています。タンパク質はこのわずかな違いを厳密に識別しますが、人工のホスト分子ではほとんど達成されていませんでした。これに対し、吉沢准教授が作成した分子カプセルは、98%以上の精度でテストステロン(男性ホルモン)を包みこむことがわかりました。この性質を利用して蛍光分子と組み合わせることで、尿中に含まれるぐらいのわずかの量(ナノグラム)のテストステロンも検出できることがわかりました。

3. 最新の研究成果「反芳香族分子に囲まれたナノサイズの異空間」

本研究は、ケンブリッジ大学のジョナサン・ニチケ教授のもとで行われました。

これまで報告されたほとんどのホスト分子は、芳香族分子[用語3]を使って作られていました。一方で、芳香族と真逆の性質をもつ反芳香族分子[用語4]は、極めて不安定であるため、ホスト分子の材料に使われることはありませんでした。近年開発された「ノルコロール[用語5]」という分子は、反芳香族分子ですが比較的安定です。そこで山科助教とニチケ教授らは、ノルコロールを使って、反芳香族分子からなる分子ケージを作り、その空間性質を調べました。

反芳香族分子からなる分子ケージの内部空間は、反芳香族分子の磁気的な影響で「反遮蔽空間」という特殊な性質を持つことが分かりました。この空間に取り込まれた他の分子は、芳香族分子からなるホスト分子の空間(遮蔽空間)とは、真逆の挙動を示しました。このようなホスト分子を構築し、その性質を実験的に解明した研究は前例がなく、世界で初めての成果です。

分子模型を使って説明する山科助教

分子模型を使って説明する山科助教

今後の展望

分子で分子を包む。今回紹介した例も含め、ナノサイズの空間は他の分子の性質を改変する力をもっています。つまり、同じ分子でも、ホスト分子の形状や空間性質を変えれば、全く異なる性質を引き出すことが可能であり、その組み合わせ数は膨大にあります。今後は、なんの変哲のない分子から高付加価値機能の創出に加え、自己修復性材料や超高感度薬物検出法への応用など、幅広い分野でナノ空間が活用されていくことが期待されます。

分子カプセルの模型

分子カプセルの模型

山科助教からのコメント

山科助教
山科助教

私達が環境によって異なる心理的影響を受けるように、分子も取り囲まれた空間の影響を受けて様相を変えます。前者の環境(例えば内装など)は主に空間デザイナーが設計し、職人が施工します。一方で、我々超分子化学者は「ナノ空間デザイナー」として、分子のための極小環境を設計かつ施工することができるわけです。とても小さな空間デザインですが、人類社会を豊かにする大きな力を秘めていると確信しているため、今後もナノ空間がもつ可能性を探求していきます。

用語説明

[用語1] クラウン・エーテル : 一般構造式(-CH2-CH2-O-)nで表される環状のエーテル。空間の大きさに合った金属を包み込むことができ、金属を必要とする有機合成などに使われます。

[用語2] アントラセン : 剛直なパネル状の多環芳香族分子。蛍光性があり、様々な材料の素材に使われています。

[用語3] 芳香族分子 : 一般に、ベンゼン環を含む分子を芳香族分子といいます。これらの分子は、π電子数が4n+2個になり、非常に安定な分子になります。医薬品など様々な材料として使われています。

[用語4] 反芳香族分子 : π電子数が4nで表される環状の分子で、一般的に不安定です。そのため、性質など不明な点が多い分子です。

[用語5] ノルコロール : 反芳香族分子に属する化合物。名古屋大学の忍久保洋教授らによって合成されました。反芳香族でありながら高い安定性を示します。

クラウン・エーテル、アントラセン

芳香族分子、反芳香族分子、ノルコロール

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お問い合わせ先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975


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