要点
- レニウム(Re)の錯体を用いた低濃度二酸化炭素(CO2)の還元反応系を開発
- Re錯体が捕集したCO2を、電気エネルギーで一酸化炭素(CO)へと変換
- 工場等からの排ガスに含まれる程度の低濃度CO2を高効率に還元可能
概要
東京工業大学 理学院 化学系の熊谷啓特任助教、西川哲矢大学院生(当時)、石谷治教授らは、二酸化炭素(CO2)を捕集する機能を持つレニウム(Re)の錯体が、低濃度のCO2を還元することができる電気化学触媒[用語1]として機能することを発見した。
石谷教授らの研究チームは、ある種のレニウム錯体が、高いCO2捕集機能と、CO2を電気化学的に還元する触媒機能を合わせ持っていることを見出した。今回、このレニウム錯体を触媒として用い、低濃度CO2をそのまま還元できる電気化学的システムの開発を目指した。その結果、1%しかCO2を含まないガスでもCO2を効率よく還元でき、一酸化炭素(CO)を高い効率と選択性で生成することができた。COは化学原料として有用で、水素と反応させることで人造石油を合成することができる。今回の発見により、火力発電所や製鉄所から排出される低濃度のCO2を含んだ排ガスを、効率的に直接資源化できる可能性が出てきた。
研究成果は2018年11月12日(英国時間)、英国王立化学会誌「Chemical Science」オンライン版に掲載された。
研究成果
石谷教授らの研究チームは、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST「新機能創出を目指した分子技術の構築」)の支援を得て、CO2を捕集する性質を持つレニウム錯体が、低濃度のCO2を還元する電気化学触媒として機能することを見出した。この錯体は、CO2を低濃度しか含んでいないガスから高い効率でCO2だけを捕集する機能を持っていた。捕集されたCO2は、炭酸エステル[用語2]として錯体に固定化される(図1)。このCO2を捕集したレニウム錯体を電気化学触媒とすることで、低濃度CO2でもそのまま還元できることがわかった。例えば、1%のCO2を含んだガスでも効率よく還元でき、24時間の反応でCOを選択率[用語3]94%、ファラデー効率[用語4]85%という高い効率で生成できた(図2)。
背景
化石資源を燃焼させる際に排出されるCO2を、電気エネルギーで還元する反応は、排出CO2削減と資源の創出の両観点から国内外で精力的に研究されている。しかし、従来の研究のほとんどは、純粋なCO2を用いて開発が行われている。しかし、火力発電所や製鉄所、セメント製造工場などから出る排ガスにはCO2が数%から十数%しか含まれていない。そのため、従来技術では大量のエネルギーが必要なCO2の濃縮過程が必要だった。そこで、実際に排出される希薄な濃度のCO2を含んだガスをそのまま利用して効率よくCO2だけを還元できる方法が求められていた。
研究の経緯
石谷教授らの研究チームは、CO2の資源化を企図した金属錯体触媒や光触媒の研究を行っている。その過程で、CO2を効率よく捕集するレニウム錯体を見出し[参考文献1]、この物質を触媒として利用してCO2の資源化反応について検討してきた。
今後の展開
COは化学原料として有用で、水素と反応させることで人造石油を合成することができる。今回の発見により、火力発電所や製鉄所の排ガスに含まれる低濃度のCO2を、大量のエネルギーを必要とする濃縮過程を経ずに、太陽光など再生可能エネルギーから変換した電気エネルギーで直接資源化できる可能性がでてきた。このような製造工程での省エネ化は、地球温暖化抑制にも貢献する技術だ。今後は、この新触媒のCO2捕集能のさらなる向上やありふれた金属である卑金属錯体の利用も視野に入れて、実用的な技術へと展開させていきたい。
用語説明
[用語1] 電気化学触媒 : 電極から電子の授受を行うことで反応を駆動する触媒のこと。
[用語2] 炭酸エステル : -OC(O)ORの構造を有する化合物で、OC(O)の部分がCO2由来。(図1を参照:右側の錯体に結合している赤色と青色で示した化合物。)
[用語3] 選択率 : 全生成物のうち、目的の生成物の割合。
[用語4] ファラデー効率 : 電極から流れた電子(電流)のうち、目的の反応に使われた割合。
参考文献
[参考文献1] Tatsuki Morimoto, Takuya Nakajima, Shuhei Sawa, Ryoichi Nakanishi, Daisuke Imori, Osamu Ishitani, Journal of American Chemical Society, 2013, 135, 16825−16828
論文情報
掲載誌 : |
Chemical Science |
論文タイトル : |
Electrocatalytic reduction of low concentration CO2 |
著者 : |
Hiromu Kumagai, Tetsuya Nishikawa, Hiroki Koizumi, Taiki Yatsu, Go Sahara, Yasuomi Yamazaki, Yusuke Tamaki, Osamu Ishitani |
DOI : |
- プレスリリース 希薄な二酸化炭素を捕捉して資源化できる新触媒の発見 ―低濃度二酸化炭素の直接利用に道―
- 貴金属、稀少金属を用いないCO2資源化光触媒を開発│東工大ニュース
- 新開発の光触媒でCO2を高効率に再資源化―緑色植物の光合成を人工系で実現―│東工大ニュース
- 光を捕集する「人工の葉」を開発-植物の光合成に匹敵する人工光合成の実現にめど-│東工大ニュース
- 光を化学エネルギーに換える光触媒の追究~光化学が担う人類の未来~ ― 石谷治│研究ストーリー|研究
- 石谷・前田研究室
- 研究者詳細情報(STAR Search) - 熊谷 啓 Hiromu Kumagai
- 研究者詳細情報(STAR Search) - 石谷 治 Osamu Ishitani
- 理学院 化学系
- 研究成果一覧
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