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オートファゴソーム前駆体を小胞体につなぎとめる 「Atg2タンパク質」の役割を解明

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要点

  • オートファジーに必須のAtg2の機能に重要な領域を決定
  • Atg2が脂質膜に結合することを解明
  • Atg2がオートファゴソーム前駆体膜を小胞体に繋留するモデルを提唱

概要

東京工業大学 生命理工学院の小谷哲也博士研究員、中戸川 仁准教授、科学技術創成研究院の大隅良典栄誉教授らは、機能が全く分かっていなかったAtgタンパク質[用語1]であるAtg2について解析を行い、Atg2が伸張中のオートファゴソーム前駆体膜を小胞体につなぎとめることを明らかにした。これまでオートファゴソームの膜の供給源の候補と考えられてきた小胞体とオートファゴソーム前駆体膜との関係を示した本研究成果はオートファゴソーム形成機構の解明への糸口となると期待される。

オートファジーは真核生物に備わった細胞内の分解機構。オートファジーではオートファゴソームと呼ばれる膜小胞[用語2]が形成され、その中に分解すべきものを取り込む。大隅栄誉教授のグループが発見したAtgタンパク質と呼ばれるタンパク質群が協調的に働いてオートファゴソームは形成されるが、そのメカニズムはよくわかっていなかった。

研究成果は9月25日発行の米国科学アカデミー紀要 (Proc. Natl. Acad. Sci. USA)電子版に掲載された。

背景

オートファジーはタンパク質やリボ核酸(RNA)などの細胞質成分や細胞小器官を分解する機構であり、酵母からヒトにいたるまで真核生物に広く保存されている。栄養飢餓などによりオートファジーが誘導されると、隔離膜と呼ばれる扁平な小胞が現れ、分解対象を取り込みながら球状に伸張し、閉じることで二重の膜構造を持ったオートファゴソームが形成される(図1)。

完成したオートファゴソームはリソソームや液胞[用語3]と融合し、リソソームや液胞の内部にある分解酵素によってオートファゴソームの内容物が分解される。これまでにオートファゴソーム形成に関わるATG遺伝子/Atgタンパク質が数多く同定されているが、個々のAtgタンパク質の膜形成における具体的な役割の理解は不十分であり、オートファゴソーム形成の詳細なメカニズムは未だに明らかになっていない。

図1. オートファジーの進行過程

図1. オートファジーの進行過程

研究の経緯

研究グループは、出芽酵母を用いてオートファゴソーム形成に関わるAtgタンパク質の一つであるAtg2の機能解析を行った。Atg2は1,592個のアミノ酸からなる大きなタンパク質だが、アミノ酸配列からは既知のドメイン構造は予測されない。Atg2はホスファチジルイノシトール3-リン酸(PI3P)[用語4]と結合するタンパク質であるAtg18と複合体を形成して、Atgタンパク質の中で最後にオートファゴソーム形成の場に局在化することが分かっていたが、具体的な機能は分かっていなかった。

異なる生物種間でのAtg2の一次配列の保存性を調べると、N末端領域とC末端領域[用語5]は非常に保存性が高いことが分かった。そこでこれら二つの領域に注目して様々なAtg2の変異体を作製し、オートファジーの活性を評価した。その結果、N末端領域とC末端領域内にAtg2の機能に重要な領域があることを突き止めた。

さらに酵母から精製したタンパク質と人工膜小胞[用語6]を用いた試験管内での実験により、どちらの領域も膜へ結合する機能を有しており、この二つの膜結合領域を介してAtg2が二つの膜構造体をつなぎ合わせることを示した。また、C末端領域がAtg2の結合相手であるAtg18のPI3Pを含む膜への結合に必要であり、Atg2-Atg18複合体のオートファゴソーム形成の場への局在化に必要であることを明らかにした。

一方、N末端領域はAtg2-Atg18複合体がオートファゴソーム形成の場へ局在化した後に重要な役割を果たすこと、さらにAtg2と小胞体との結合に関与する可能性があることを示した。以上の結果から、Atg2はオートファゴソーム前駆体を小胞体につなぎとめて、オートファゴソームの形成を開始し、膜の伸張を媒介するモデルを提唱した(図2)。

図2. Atg2-Atg18複合体はオートファゴソーム前駆体を小胞体につなぎとめる

図2. Atg2-Atg18複合体はオートファゴソーム前駆体を小胞体につなぎとめる

今後の展開

オートファジーの研究は世界中で活発に行われているが、オートファジーの最大の特徴である二重の膜構造を持ったオートファゴソームの形成機構については、膜がどこからどのようにして供給されるのかなど、未だに多くの疑問が残されている。これまでに小胞体がオートファゴソーム形成のための膜の供給源であることを示唆する結果が報告されている。また、今回の研究によりAtg2が隔離膜と小胞体を繋ぎ合わせる可能性が示された。

しかし、小胞体から隔離膜へどのように脂質が輸送されるのかといった膜伸張反応に関する機構に関しては未だに不明のままである。Atg2が小胞体のどこと結合しているのか、結合した後に何が起きるのかを詳細に解析することで、膜伸張反応のメカニズム解明へと近づけると期待される。

オートファジーは神経変性疾患や癌といった様々な疾患と関連することが報告されている。オートファゴソーム形成機構の理解は、これらオートファジーが関わる疾患の治療のための創薬における基盤情報になると期待される。

用語説明

[用語1] Atgタンパク質 : オートファジー関連(autophagy-related)タンパク質。出芽酵母においては現在までに40種類以上のAtgタンパク質が報告されている。19種類のAtgタンパク質がオートファゴソーム形成に関わると言われており、そのほとんどは2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典博士のグループにより発見された。

[用語2] 膜小胞 : 脂質二重層(脂質膜)でできた袋状の小胞。物質の貯蔵や輸送に関与する。

[用語3] リソソーム、液胞 : 細胞質中にあって、一群の加水分解酵素を含み、消化分解作用をもつ小器官。動物細胞の場合はリソソーム、植物や酵母細胞の場合は液胞がこれに相当する。

[用語4] ホスファチジルイノシトール3-リン酸 : リン脂質の一種であるホスファチジルイノシトール(PI)のイノシトール環の3位のヒドロキシ基にリン酸基がエステル結合したもの。オートファジーにおいては、オートファゴソーム形成の場で、Atg14を含むPI3-キナーゼ複合体によってPIがリン酸化されPI3Pが産生される。

[用語5] N末端領域とC末端領域 : タンパク質はアミノ酸の重合体である。アミノ酸のカルボキシル基と次のアミノ酸のアミノ基とがペプチド結合を形成し、これを繰り返すことで、ひも状の重合体となる。タンパク質の末端のうち、アミノ基を持つ方をN末端、カルボキシル基を持つ方をC末端と呼ぶ。

[用語6] 人工膜小胞 : 脂質分子は水溶液中で自発的に脂質二重層(脂質膜)を形成し、球状となる。この性質を利用して人工的に作った膜小胞を人工膜小胞と言う。

論文情報

掲載誌 :
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
論文タイトル :
The Atg2-Atg18 complex tethers pre-autophagosomal membranes to the endoplasmic reticulum for autophagosome formation
著者 :
Tetsuya Kotani, Hiromi Kirisako, Michiko Koizumi, Yoshinori Ohsumi, and Hitoshi Nakatogawa
DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系 博士研究員

小谷哲也

E-mail : kotani.t.ab@m.titech.ac.jp

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系 准教授

中戸川仁

E-mail : hnakatogawa@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5735 / Fax : 045-924-5743

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


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