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光照射による相転移現象のドミノ効果を可視化

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光照射による相転移現象のドミノ効果を可視化
高効率光スイッチング素子応用に道

概要

理工学研究科の沖本洋一准教授らの研究チームは、試料のペロブスカイト型コバルト酸化物(Pr0.5Ca0.5CoO3)に光を照射することで新しい磁性金属状態を創製するとともに、それがドミノ的に試料奥行き方向に伝播していく様子を可視化することに成功した。実験手法はポンププローブ反射分光法 (用語 1)を用い、光照射後の光反射率変化をピコ秒(1兆分の1秒)スケールで追跡して観測、得られた観測データを電磁気学的に解析することにより実現した。

さらに、この光照射により発生する相転移のドミノ効率は、1光子の入射でおよそ80サイトのコバルトイオンを磁化できることがわかった。この高い相転移効率はドミノ的な光励起状態の増殖によってもたらされるものであり、高い効率を持つ光スイッチング素子応用に向けて道を拓くと考えられる。

研究の背景

レーザーパルス光照射による固体の電気的、磁気的性質の高速制御の研究が現在、注目を集めている。これは、光誘起相転移現象と呼ばれ、基礎物理学的観点、および高速スイッチングデバイスへの応用の観点から興味深い現象である。

本研究では、スピンクロスオーバー転移を示すコバルト酸化物に注目しその光照射効果を調べた。スピンクロスオーバー転移とは、鉄やコバルトなどの遷移金属原子中の電子のスピン状態が、強い電子-格子相互作用により磁性状態と非磁性状態間を変化する現象で、特に鉄の有機錯体系などで光照射によるスピンクロスオーバー変化(光磁性効果)がよく知られており、広く研究がなされている。本研究では、有機錯体系よりはるかに安定・堅牢であるセラミック化合物でありかつスピンクロスオーバー物質として知られるコバルト酸化物Pr0.5Ca0.5CoO3に注目し、光で創られる光磁性相生成の探索的研究を行った。

研究成果

本実験では、高速レーザパルス(波長800nm)を試料に照射し、その後の光反射率の時間依存性を中赤外~可視光領域まで測定し、データの電磁気学的解析を行った。その結果、光照射によってコバルト原子の磁性が発生しかつ金属化することがわかった。更に、励起されたコバルト原子は実空間でドミノ的に増殖していくこと(下図)、および1つの光子が約80サイトのコバルト原子を磁化できること、などが明らかになった。このような高い光変換率は、ドミノ的な励起状態の増殖によるものであり、上述の鉄系や、一般の光化学反応で見られるような1光子が1つのサイトを励起する通常の光照射効果とは本質的に異なる現象である。

今後の展開

応用に向けての問題点はこのドミノ効果発生の動作温度が-190度と低いことで、今後類似のコバルト系で動作温度の高い応答を示す試料を探索していく。また、このドミノ発生の起源はまだ明らかになっていないが、レーザ光照射により生じた衝撃波が相転移を助けている可能性が示唆されており、高速のX線パルスをつかった原子位置を直接見る研究がを行うことにより、その起源を解明していく予定である。

光で創成された磁性金属状態がドミノ的に試料奥行き方向に伝播していく様子

光で創成された磁性金属状態がドミノ的に試料奥行き方向に伝播していく様子

用語 1 ポンププローブ反射分光法
光励起用と反射率の測定用の二つのレーザパルスを用いて、試料の光励起後の反射率変化の時間変化を追跡する分光学的手法。

論文情報

雑誌名
Physical Review B 83, 161101(R) (2011).
論文タイトル
Acceleration of domain wall movement by photoirradiation in perovskite-type cobaltite
執筆者
Yoichi Okimoto et al.
雑誌名
Physical Review Letters 103, 027402 (2009)
論文タイトル
Ultrasonic Propagation of a Metallic Domain in Pr0.5Ca0.5CoO3 Undergoing a Photoinduced Insulator-Metal Transition
執筆者
Yoichi Okimoto et al.

お問い合わせ先
理工学研究科物質科学専攻
准教授 沖本 洋一
TEL 03-5734-3895
okimoto.y.aa@m.titech.ac.jp

※1月31日、論文情報(Acceleration of domain wall movement by photoirradiation in perovskite-type cobaltite)を追加しました。

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