概要
東京工業大学資源化学研究所の上田宏教授と鍾蝉伊(チュン チャンイ)研究員らは、二つの蛍光タンパク質と抗体[用語1]断片を巧妙に用いた、汎用性の高いバイオセンサーの構築に成功した。
この手法を用いることで、細胞内外の多くのタンパク質の濃度を、混ぜて蛍光色(スペクトル)を測定するだけで簡便迅速に測ることが可能となり、基礎的な生物学の実験から病気の診断まで、幅広い分野での応用が期待される。
研究成果
抗体は、我々の体内でさまざまな外敵分子(抗原)を認識・結合し我々を守ってくれるタンパク質である。しかしこれまで、試験管の中に入れた抗体が抗原に結合したかどうかを知ることは、手間暇をかけて実験するか、大変高価な測定機を用いて検出しない限り不可能であった。上田教授らは、この抗体断片に緑色蛍光タンパク質「GFP」[用語2]の色が異なる二つの変異体を結合させ、血清アルブミン(SA)[用語3]をその場で検出できるバイオセンサーを作ることに成功した。
これら二つの蛍光タンパク質(シアン蛍光タンパク質「CFP」と黄色蛍光タンパク質「YFP」)は、両者の間の距離が遠い時には水色(シアン)の蛍光を発するが、距離が短いと、蛍光共鳴エネルギー移動[用語4]と呼ばれる機構により黄色の蛍光を発するようになる。これらのタンパク質を抗体の抗原結合部位を形作る二つの断片のそれぞれに注意深く結合させることで、抗原であるSAの有無で顕著に蛍光色が変化することを見いだした。このセンサーはタンパク質のみからできているにも関わらず、サンプルと混ぜて蛍光色を測るだけで診断に十分な感度でSAが検出できる。今後用いる抗体を変えることで様々なタンパク質の検出に応用できると考えられる。
今後の展開
抗原タンパク質と混合し、蛍光を測定するだけでその定量が可能になる今回の技術は、検出に特殊な技術を要しないことから生物学や生物工学における基礎的な実験法としての利用のみならず、各種のタンパク質、例えば食品中のアレルゲンや体液中のバイオマーカーの迅速検出に大いに役立つと考えられる。
用語説明
[用語1] 抗体 : 我々の体内で外敵から身を守ってくれるタンパク質。抗原結合部位でターゲット(抗原=外敵)を認識し、結合する。
[用語2] 緑色蛍光タンパク質(GFP) : 下村脩氏が発見された、オワンクラゲ由来のタンパク質。変異導入により、多数の発光色の異なる変異体が作られている。
[用語3] 血清アルブミン(SA) : 血中総タンパク質の約6割を占める。この濃度は栄養状態の良い指標となることが知られている。
[用語4] 蛍光共鳴エネルギー移動(FRET) : 二つの蛍光色素が近くに位置する時、短波長の色素を励起してもエネルギーが移動して長波長の蛍光が観察される現象。
論文情報
掲載誌 : |
Analytical Chemistry |
論文タイトル : |
Open flower fluoroimmunoassay: a general method to make fluorescent protein-based immunosensor probes |
著者 : |
鍾 蝉伊1、牧野良史1、董 金華2、上田 宏2
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所属 : |
1東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻、2資源化学研究所
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DOI : |