最先端科学技術を担う若手研究者を育成するために東京工業大学が2018年度に設立した基礎研究機構(大竹尚登機構長)の2022年度成果報告会・交流会が、3月6日、東工大すずかけ台キャンパスS8棟レクチャーホールおよびオンライン配信のハイブリット形式で開催され、出席者総数は110人を超えました。
基礎研究機構は、東工大が世界をリードする最先端研究分野である「細胞科学分野」(大隅良典塾長)、「量子コンピューティング分野」(西森秀稔塾長)、「有機化学分野」(鈴木啓介塾長)の3つの「専門基礎研究塾」と、本学の各学院から推薦された新任助教が塾生として3ヵ月間研鑽する「広域基礎研究塾」(初澤毅塾長)から構成されます。
大竹機構長の司会により進行され、第一部では各塾の塾長による基礎研究塾の活動報告を、第二部では塾生による海外派遣プログラムの活動報告を行いました。
基礎研究塾報告
第一部は大竹機構長のあいさつで始まり、次いで渡辺治理事・副学長(研究担当)から塾生への激励があり、来賓のあいさつとして、文部科学省 研究振興局の森晃憲局長からオンラインで祝辞をいただきました。
大竹尚登機構長
基礎研究機構は2018年に発足したが、これは東工大から若手研究者への挑戦的な研究をしてほしいというメッセージである。基礎研究機構は、自分が将来どんな研究をしたいか考え、余裕をもち、研究そのものや、研究者としての人生を考える時間を提供していく。
本機構の活動前提にあるのは、2016年に大隅栄誉教授が提言した「基礎研究力の危機」と「科学を文化に」のキーワード。若手研究者の研究時間が不足しており、研究エフォートは60%程度と言われるなかで、研究エフォート90%を目標に掲げ活動している。
また、研究資金を獲得するために短期的な研究に集中せざるを得ない状況をサポートするために、挑戦的な研究ができる「新研究挑戦奨励金」で支援を行い、塾生同士の異分野研究も促進している。
渡辺治理事・副学長(研究担当)
研究には原動力が必要になるが、年を重ねてくると、やらなくてはいけないことに追われ、やりたいことが出来なくなってくる。やりたいことに突き進めるのは若手の特権である。基礎研究機構では、若手研究者の“やりたい”をより幅広く、より大きなことに取り組むために必要な考える時間と機会を提供し、自身のキャリアパスを考える場にしてほしい。
森晃憲 文部科学省研究振興局長
研究に専念できる時間や若手研究者の活躍できる場の確保は、我が国の研究力に関するさまざまな問題の解決につながる。自由な発想に基づく研究や、トップレベルの研究者が率いる研究体制など、研究に集中できる環境を構築することは、未来を担う若手研究者を育成して、長期的視点で学術の芽を創造し続ける上で必要だと思う。
基礎研究機構の取組みによって、若手研究者にとって恵まれた環境を提供されている。今後も活発な議論が展開されるとともに、将来のイノベーション創出を担う若手研究人材の輩出につながることを期待している。
文部科学省としても、大学の研究力強化に向けて、関係省庁とも連携しながらさまざまな施策を講じてきている。大学ファンドによる国際卓越研究大学への支援や、地域中核・特色ある研究大学総合振興パッケージによる支援をはじめとして、関係施策を進めており、多様な大学群の形成等を通じて、我が国全体の研究力向上を図りたいと考えている。
基礎研究機構および東京工業大学の更なるご発展と、本日ご出席の皆様方のますますのご活躍を祈念している。
続いて、3つの専門基礎研究塾の塾長から、それぞれ2022年度の活動報告がありました。
大隅良典塾長(専門基礎研究塾 細胞科学分野)
統合後の新しい大学は「東京科学大学(仮称)」という名称に相応しい“日本でもっとも研究しやすい大学“になることを期待している。
科学と技術は近年相互に強く依存しながら発展してきた。人類の未来には、科学と技術の健全な発展が必要。科学者の社会的な使命が改めて問われるなかで、科学には専門知と総合知が求められ、あらゆる分野との接点をもって研究を進める時代になっている。
次世代の研究者には、大きな目標を掲げ未知への挑戦をし、大学でしかできない研究を行い、長いスパンで研究を考えてほしい。また、5年前に立ち上げた「大隅基礎科学創成財団」の活動を通して、多くの方と関わり企業が何を求めているのか知ることができたので、多様な人との交流し広い視野を獲得し、未来の研究、大学の在り方についての広範な議論をしてほしい。
当専門塾の活動は以下の4つ。
- 1.
- 談話会:シニア教員から若手にメッセージを提供。今期は2回実施(2022年6月に久堀徹教授、2023年1月に池田啓子特定講師)
- 2.
- コロキウム:国内外の講師を招き、生物学に関する最先端の研究成果を紹介。今期は9回開催。
- 3.
- 塾生研究費:研究費として有効活用。
- 4.
- 共同実験室・共同利用機器:共同実験室の整備・拡大。
西森秀稔塾長(専門基礎研究塾 量子コンピューティング分野)
当専門塾の活動は以下の2つ。
- 1.
- 会議主催:国内外からの幅広い研究者により話題提供いただく。今期は2回開催。
- 2.
- 塾生研究費:D-Wave量子コンピュータ使用料
鈴木啓介塾長(専門基礎研究塾 有機化学分野)
当専門塾の活動は以下の2つ。
- 1.
- インタラクティブセミナ-:今期は国内外8人の講師によりオンライン講演会を開催。
- 2.
- 塾生研究費:塾生の消耗品購入や学会参加
次いで、広域基礎研究塾の初澤毅塾長より、2022年度の広域基礎研究塾の活動報告が、伊能教夫副機構長より、広域基礎研究塾の入塾効果の分析について報告がありました。
初澤毅塾長(広域基礎研究塾)
広域基礎研究塾では3ヵ月の期間に限定し、塾生の研究エフォートを上げてもらい、自分のテーマを深く考えることを目的としており、今期は13人の塾生が活動を行った。累計塾生は78人となり、さまざまな学院から満遍なく参加いただいている。
当広域塾の活動は以下のとおり。
- 1.
- オリエンテーション
- 2.
- 個別面談
- 3.
- 研究分野紹介発表会
- 4.
- 大隅先生を囲む会
- 5.
- ワークショップ「未来社会と自身の研究との繋がりを考える」
- 6.
- 研究テーマ設定発表会
- 7.
- 成果報告会
新たに若手研究者を東工大ANNEX等の海外大学等研究機関へ派遣する経費を支援する取り組み「羽ばたけ!若手教職員PJ」を立ち上げ、長期コース3件と、短期コース4件の派遣支援を行った。
伊能教夫副機構長
現時点で追跡可能な指標をもとに、塾生が新しい研究テーマの取り組みを始めているのか、広域基礎研究塾の目的である「長期的視点に立つ新しい研究テーマ設定」「異なる分野の研究者とのネットワーク形成」に焦点を絞り、第1、2期生を対象に広域塾修了後の研究発表、科学研究費の採択状況、異分野の研究者との連携を調査した。
現段階では、半定量的な分析方法ではあるが、塾生は独自の新研究テーマに挑戦している姿勢がうかがえた。また、異分野の研究者と協働して研究を展開する動きも見られることから、今後の展開が大いに期待される。
海外派遣報告
第二部では、2022年度に立ち上げた「羽ばたけ!若手教職員PJ」により海外の大学・研究機関に派遣された4人の塾生(長期2人、短期2人)による活動報告を行いました。
麻生尚文塾生(広域基礎研究塾2期生)(理学院 地球惑星科学系) 長期派遣
派遣先:
カリフォルニア大学バークレー校、アメリカ地質調査所 他
派遣による成果:
連日議論を行い、研究に対する考え方を学ぶとともに将来の研究プランを練ることができた。さらに、研究についてゆっくり考える機会を得られただけでなく、自分の研究分野以外の研究領域についても興味を持って学ぶことができた。
倉元昭季塾生(広域基礎研究塾4期生)(工学院 システム制御系) 長期派遣
派遣先:
ミュンヘン工科大学、アーヘン工科大学
派遣による成果:
3ヵ月では思っていたことはできなかったが、今後の研究方針を検討でき、さらにディスカッションを重ねるうちに共鳴する研究テーマが生まれ、今後共同研究を目指すことになった。
三木卓幸塾生(広域基礎研究塾1期生)(生命理工学院 生命理工学系) 短期派遣
派遣先:
GR Conference、シラキュース大学、カリフォルニア大学バークレー校
派遣による成果:
朝から晩まで討論し、フリータイムでは研究者と交流を行った。一流の研究者との写真を研究室に飾ることで、研究室メンバーが自分たちの研究内容に自信をもてるようになり良い影響が生まれた。新たな研究課題をみつけ、本格的な共同研究テーマへつながりそう。
田島真吾塾生(広域基礎研究塾3期生)(科学技術創成研究院 未来産業技術研究所) 短期派遣
派遣先:
オレゴン州立大学、アメリカ精密工学会(ASPE)
派遣による成果:
共同実験を実施し、実機検証にて有用性を確認できたので、ジャーナル論文に投稿し査読中。新たな共同研究計画の創出ができ、来年度より開始予定。
大竹機構長による閉会の辞では、研究者への評価に触れ、会場で出席した佐藤勲総括理事・副学長および、小倉康嗣監事からもコメントがありました。
質疑応答も活発に行われ、成果報告会は盛況のうちに終わりました。
ポスター発表会・交流会
成果報告会終了後、すずかけ台キャンパスS1棟105号室にて専門基礎研究塾・広域基礎研究塾5期生全員と、広域基礎研究塾1~4期生の有志によるポスター発表会を開催し、引きつづき、会場を移して3年ぶりとなる交流会を行いました。
ポスター発表会では、60人を超す参加者が、発表ポスター40件を前に熱心な討論を繰り広げました。また、成果報告会に続き文部科学省の若手職員もポスター会場を訪れ、塾生と研究活動を実施する上での要望などについて活発な意見交換を行いました。
交流会では、新型コロナウィルス感染対策に配慮しつつ、今後の基礎研究機構の展開やそれぞれの将来の夢などについて意見を交わしました。